嵐『Japonism』は80年代後半のアップデート? ジャニーズが重要視する“ジャポニズム精神”
しかし、不満もなくはない。たしかに、ジャニーズ自身による、ジャニーズのジャポズム批評は素晴らしかった。楽曲も非常に工夫されている。だが、個人的にはやはり、もっともっとアップデートしたジャポニズムを聴きたかったのだ。「和太鼓や尺八を導入すれば日本風でしょ」という80年代的な態度ではなく、もっと現代的ななにかを。その意味で、「三日月」という曲は素晴らしかった。途中にそれとなく、篳篥のようなシンセ音が挿入されることで日本風の雰囲気が醸し出されるのだが、全体的にはヴォコーダーを使った現代的な(インディー)R&B(強いて言えば、フランク・オーシャンのような)の雰囲気である。8分の6になるサビも、とても上品だ。『Japonism』というアルバム名のアナウンスを聞いて本当に期待したのが、このような現代的なサウンドを踏まえたジャポニズムだったことはたしかだ。本作には、「Don't you love me」や「Mr. FUNK」など、非‐ジャポニズム方向の、洗練されたディスコ曲もある。ジャポニズム系の曲がそのような方向にアップデートすることを求めるのは、はたして欲張りなのか。いや、ジャニーズの本領は、まさにそういった困難でこそ発揮されるのではないか。おおいなる飛躍を信じている。
■矢野利裕(やの・としひろ)
批評、ライター、DJ、イラスト。共著に、大谷能生・速水健朗・矢野利裕『ジャニ研!』(原書房)、宇佐美毅・千田洋幸『村上春樹と一九九〇年代』(おうふう)などがある。