X JAPAN、BABYMETALの海外進出を準備した? 先駆者LOUDNESSの音楽的功績を振り返る

 日本人好みの泣きのメロディを含む初期路線から、全米進出を機にカラッとしたアメリカンメタル路線へとシフトチェンジ。その第一歩となったのが、1985年に発表された代表作『THUNDER IN THE EAST』だ。マックス・ノーマンがプロデュースした本作は今聴くと多少の古臭さはあるものの、「日本人だから」「ジャパメタだから」といった枕詞がまったく必要ない、当時のHR/HM名作群に引けを取らない魅力を今でも放ち続けている。その後、ボーカルの二井原実が脱退し、後にイングヴェイ・マルムスティーンと活動を共にしたりアニメタルUSAとして逆輸入されることになるマイウ・ヴェセーラが加入。そこで発表された1989年のアルバム『SOLDIER OF FORTUNE』も、(アメリカではヒットに結びつかなかったものの)メロディアスUSメタルの最高峰と呼んでも差し支えのない仕上がりの1枚だ。

 最初の10年間は順調に活躍していたLOUDNESSだが、90年代に入るとその活動に陰りが見え始める。マイクの脱退(解雇)、そして山下昌良(B)の脱退。これに代わるかのように元E.Z.OのMASAKI(Vo)、当時Xを脱退したばかりのTAIJI(B)の加入。この「もはや原型をとどめていない」LOUDNESSが放った唯一の作品『LOUDNESS』は、『ブラックアルバム』以降のメタリカやパンテラ以降のモダンヘヴィネス系バンドからもろに影響を受けた異色作となっている。そしてこのアルバムが(TAIJIの加入も手伝ってか)現在までにもっとも高い売り上げを記録しているのも興味深い。以後、彼らのサウンドは初期の正統派メタル色が払拭された、ヘヴィロック路線を突き詰められていく。と同時に、TAIJIやオリジナルメンバー樋口の脱退、元E.Z.O.の本間大嗣(Dr)、ANTHEMを解散させた柴田直人(B)が加入するも、以前のような輝きを取り戻せないままミレニアムを迎える。

 ここまでの20年を振り返ると、LOUDNESS(というよりも中心人物の高崎)がいかに自分の欲求に忠実に音楽活動を続けていたかがわかるはずだ。イギリスやアメリアでのヘヴィメタルブームの勃発と同時に誕生したLOUDNESS、アメリカでの成功を夢見てサウンドを(だけでなくボーカリストまでアメリカ人に)シフトチェンジし、時代の移り変わりと共に「メタルの質」が変われば自身の音もそれに合わせる。ある意味では後追いかのかもしれないが、実はものすごく時代を読む力があるのではないか。今ならそう思えてくる(当時はまったくそんなこと思えずに、「初期の音に戻せ!」と憤っていたが)。

 そして2000年に入り、二井原、高崎、山下、樋口のオリジナルメンバーが復活。サウンドもモダンヘヴィネス路線を踏襲しながらも、初期のメロウな色合いが徐々に復活していく。2008年11月の樋口の逝去という悲劇はあったものの、LOUDNESSは現在も海外展開を含めた精力的な活動を続けている。

 彼らがいなかったら、のちにX(X JAPAN)も誕生しなかったし(アマチュア時代の彼らはLOUDNESSのカバーも披露していた)、X JAPANが生まれなければその後のヴィジュアル系も誕生しなかっただろう。もっと言えば、BABYMETALの海外進出およびそれに伴う成功もここまで大きなものにはならなかったのではないか……『THUNDER IN THE EAST』リリースから30年後の2015年、『レディング・リーズ・フェスティバル』のメインステージに立った彼女たちの映像を観ながら、そんなことを考えたものだ。

LOUDNESS - 「The Sun Will Rise Again」MV

 奇しくも11月には『THUNDER IN THE EAST』30周年記念エディションのリリースを控えているだけでなく、10月開催の『LOUD PARK 15』では「SOLDIER OF FORTUNE feat. Mike Vescera」名義でマイク・ヴェセーラ、高崎、山下という布陣のライブが24年ぶりに実現する。さらに、昨年日本で発売された最新アルバム『THE SUN WILL RISE AGAIN』も海外リリースに向けて、新たにリミックス&曲順変更したエディション『THE SUN WILL RISE AGAIN - US MIX-』として再発売。往年のファンはもちろんのこと、まだLOUDNESSの真の魅力に気付いていない若い世代もこれをきっかけに、ぜひレジェンドの底力を体感してほしい。なぜ彼らが歴史を動かすことができたのか、その音から理解してもらえるはずだから。

■西廣智一(にしびろともかず) Twitter
音楽系ライター。2006年よりライターとしての活動を開始し、「ナタリー」の立ち上げに参加する。2014年12月からフリーランスとなり、WEBや雑誌でインタビューやコラム、ディスクレビューを執筆。乃木坂46からオジー・オズボーンまで、インタビューしたアーティストは多岐にわたる。

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