レジーのJ−POP鳥瞰図 第5回

清竜人25とAwesome City Club、初期コンセプトをめぐるそれぞれのやり方

清竜人25、「夫」が『PROPOSE』に仕掛けたトリック

 清竜人25というアイドルグループを一言で言い表すとすれば、やはり「一夫多妻」というキーワードが浮かび上がる。

 「恋愛禁止」が基本の女性アイドルシーンにおいて「一夫多妻」というコンセプトを提示することは間違いなく刺激的なやり方ではあるが、ここで注意したいのはおそらくすべてのリスナーがこの「一夫多妻」について「つくり話である」というのを認識していることである(当たり前と言えば当たり前だが)。清竜人25の「一夫多妻」は世間のアイドルを取り巻く空気を逆手にとって生み出された(と思われる)「設定」であり、ステージ上で清竜人と「夫人」が絡んだとしても、あくまでもそれは「演技」と同じ類のものとして扱われる。このあたりの仕組みについて積極的に発言している『「アイドル」の読み方:混乱する「語り」を問う』の著者である香月孝史は、リアルサウンドでの連載「アイドル論考・整理整頓」において清竜人25の「一夫多妻」に「個々の楽曲の前提として用意されたこの大きな嘘」という表現を当てている(http://realsound.jp/2015/09/post-4508.html)。

 9月2日にリリースされたデビューアルバム『PROPOSE』も、この「大きな嘘」をさらに立体化する形で進んでいく。6人の「妻」を持つ「夫」のモテ男ぶり(「Mr. PLAY BOY...♡」)や古風な男らしさ(「ハードボイルドに愛してやるぜ♡」)が歌われたかと思えば、「夫」もたまにはそんな生活に少しだけ疲れたりするし(「やっぱりWifeがNo.1♪」)、もちろんお互いの愛を確認するような甘い関係性も存分に描かれている(「The♡Birthday♡Surprise」)。また、「一夫多妻」というコンセプトに忠実に則った歌詞に対し、サウンド面ではこれまでのアイドルシーンを総ざらいするようなアプローチが行われているのも面白い。冒頭2曲(「Will♡You♡Marry♡Me?」「Mr. PLAY BOY...♡」)のソウル調からビッグバンドへの流れは2000年前後のモーニング娘。へのオマージュのようにも思えるし、ライブ=「現場」映えしそうな情報量多めの楽曲(「A・B・Cじゃグッと来ない!!」「どうしようもないよ...」)と並んで、かつてTomato n'Pineが担っていたような硬質なリズムトラックと流麗なストリングスを組み合わせたおしゃれなポップソング(「プリ~ズ…マイ…ダ~リン♡」)も収録されている。

 「一夫多妻」というユニークな(そして批評性も帯びている)コンセプトの下で、アイドルシーンの歴史をなぞるように展開されるフィクショナルなエンターテイメント。これで終わっても大満足なのだが、アルバムラストに収録された「誓いのワルツ」でこちらの見立てはほんの少し覆される。

<君には 俺の歌だけ 聞いて 歌ってほしい その代わり 必ず 俺は 今 ここにいる 君を 幸せにすることを 誓います>

 清竜人が作詞したこの歌詞は、「夫」から「妻」へのプロポーズというコンセプト通りの体裁をとっているが、ここに<俺の歌だけ 聞いて 歌ってほしい>というステージ上の出来事を想起させるモチーフを織り込むことで「パフォーマー/プロデューサー」である生身の清竜人の言葉とも捉えられるような組み立てになっている。

 この歌詞は設定上のものなのか、それとも設定を離れた清竜人の言葉なのか。そんな視線の揺らぎが導入されることで、先ほど紹介した歌詞以降に登場する「そばで歌っていたい」「添い遂げる」という言葉は途端に生々しい意味合いをはらんでくる。そうなってくると、ここまで展開されてきたアルバムの世界自体についても「どこまでシャレでどこまで本気か」が途端にあやふやになってきてしまう。

 世の中の空気を逆手にとってコンセプトを設定したかと思えば、今度はそのコンセプトを逆手にとってリスナーを混乱に陥れる。清竜人25はデビューから1年足らず、1枚目のアルバムでここまで複雑な構造の作品を生み出した。この先にどんな展開が待っているのか、現段階では全く予想がつかない。

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