市川哲史の「すべての音楽はリスナーのもの」第22回

急逝したクリス・スクワイア、イエスを支えた“大人ぶり”とは? 市川哲史が取材エピソードを回想

プログレッシャーズの悲しき蒐集癖

 そんな〈豪華な大蔵ざらえ〉ブームにとって上得意の顧客様は、やはり〈プログレ者=プログレッシャーズ〉になる。

 なにせそのマニア性という名のオタク度はレコード時代から激しく、メンバーの転出転入が激しいプログレならではの「一瞬でも在籍した者が残した作品は、ソロもバンドもセッションも全て揃える!」的な蒐集癖は、まさに恰好の餌食だ。

 さてプログレ関連が誇る〈鬼フィジカル〉商品は、キング・クリムゾン1974年9月発表の7thアルバム『レッド』の40周年記念BOX『The Road To Red』か。

 70年代クリムゾンは未発表の新曲をライブで披露しながら、自由で壮絶なインプロヴィゼイションを重ねて楽曲に磨きをかけた。だからツアーの大半をライブ・レコーディングし、その音源群を基にアルバム収録曲を完成させたのだ。

 するとこの鬼BOXは、『レッド』を「公開鍛錬」していた74年4月開始の北米ツアー全51公演中16公演のライブ音源を含む、21CD+1DVDオ-ディオ+2Blu-rayオーディオから成る、巨大な代物に。5thアルバム『太陽と戦慄』の〈鬼フィジカル〉が13CD+1DVDオーディオ+1Blu-rayオーディオだったことを思うと、もはや人でなしの膨張率と言えよう。でも買い続けるのがプログレッシャーなのだ。ああ。

 一方6月10日にリリースされたばかりのイエスのライブBOX『プロジェニー』は、CD14枚組。一瞬でも「お、コンパクトじゃん」と思ってしまった自分が憎い。

 同じプログレでもイエスは、緻密すぎて手に汗握る楽器アンサンブルをライブで軽々再現してしまうカタルシスが売り。なのでこのBOXは、1974年3月発表のライブ名盤『イエスソングス』が録音された72年全米ツアーから7公演を完全収録しており、まるでアサガオの観察日記のように同一曲目の演奏を聴き較べて、「あーでもないこーでもない」と重箱の隅で踊りまくれるわけだ。盆栽か。

 そして結成された1968年以来現在に至るまで、イエスに在籍し続けた唯一のメンバー、クリス・スクワイアが6月27日急性骨髄性白血病で逝去してしまった。享年67歳。まさか43年前の14枚組ライヴが遺作になってしまうなんて、らしいっちゃらしい。

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