木村竜蔵が再定義する「80'sサウンド」ーー“鳥羽一郎の息子”という枷から脱却なるか?

木村竜蔵『碧の時代』

 

 木村自身はもともとフォークソングに魅了されて音楽を始めたアーティストで、このアルバムに収録されている楽曲のほとんどがアコースティックギター1本で書かれたものばかり。そんなシンプルな楽曲の数々を、個性的なプロデューサー陣は「80'sサウンド」というお題に沿って「これぞ80年代」な音へと進化させている。いかにもなシティポップサウンドからマンチェスター調ダンスビート、ニューウェイブやテクノからの影響が強いエレクトロサウンド、そしてザ・ポリスの名曲「見つめていたい」にも通ずる王道ポップスまで……あの時代ならではのキラキラ感が兼ね備わりつつも、単なる懐古主義では終わらない現代的な味付けもされた高品質な楽曲群は、1曲1曲を取り出して聴いても存分に味わい深いものだが、こうやってアルバムとして並べて聴いた際に感じるのは、まるでおもちゃ箱をひっくり返したかのようなワクワク感。あの頃のヒット曲を集めた「ベストヒット80's」的オムニバス盤にも通ずる「80年代といえばコレ」感は十分に再現されている。しかし、だからといってアルバムとしての統一感が皆無かというとそんなことはなく、木村というシンガーが歌うことによって一本筋の通っており、最初から最後まで気持ち良く聴くことができる。

 正直、こんな力作がこのまま見過ごされてしまうのは本当に惜しい。あの時代をリアルタイムで通過した30代後半以上の世代はもちろんのこと、木村同様に80年代を肌で感じていない若年層にも響く楽曲もあるはず。「二世タレント」といった色眼鏡は外して、まずはそこで鳴らされている音と歌に耳を傾けて、純粋な気持ちで音楽に接してほしいと願うばかりだ。

■西廣智一(にしびろともかず) Twitter
音楽系ライター。2006年よりライターとしての活動を開始し、「ナタリー」の立ち上げに参加する。2014年12月からフリーランスとなり、WEBや雑誌でインタビューやコラム、ディスクレビューを執筆。乃木坂46からオジー・オズボーンまで、インタビューしたアーティストは多岐にわたる。

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