Alfred Beach Sandalと王舟が語り合うソロ活動のスタンス 「自然に開けていたら一番いいなと思う」

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「パッションだけでやっているとだんだん飽きてくる」(北里)

――同じ発売日ということで、お互いの作品についての感想を聞かせてください。

王舟:『Honeymoon』って、前より輪郭がはっきりしてて、zAkさんがプロデュースしてるということもあるけど、音が届くスピードが前より速いと感じた。ビーサンがこの路線をやるのは少し前だとあんまり想像できなかったけど、やったらやったで結構いいなっていう感じはすごくあります(笑)。

――音の届くスピードが速くなったというのは、よりストレートになったということですよね?

王舟:素直な感じだけど、アンサンブルもかなり良くなっている。前はもう少しモヤ掛かった印象があったけど、「仕上げてきたなー」と。これまでは、フィギュアスケートで言うとエキシビションだったけど、しっかり試合用にしてきた感じ。

北里:自然にやってきていることだから、変わったのか自分じゃよくわからないですけどね…。でも、サウンド的にはかなりビルドアップされたと思います。バンドのアンサンブルは一緒にやってきている中で、どんどん纏まってきているし、これまでは自主でやっていたけど、最近は音楽のことだけに集中できる度合いも増えたので。

――音楽を作ることに集中できる時間が増えたことで、自分の中でこういうものを作ろうという考え方は変わりましたか?

北里:それはあんまり変わってないです。もともとそういう、何か思い描いた完成形に向かっていくみたいなタイプじゃないんですけど、その時思いついたことをどうするかという感じで。自分が曲を作る段階で、刷り込みみたいに影響を受けてきた音楽とかは出ているし、基本的には曲の作り方も大体一緒だし。ギターだったらギターで、フレーズをループとしてまず組んで、それをどう発展させていくかっていう。だからサンプラーは使ってないけど、ヒップホップとかに考え方は近いような気がします。

王舟:ビーサンがやっていること自体は全然変わってないもんね。

北里:変わった部分って、zAkさんとか、サポートメンバーからフィードバックされたなかで気付いたところだったりするかも。でも、俺はこれでいいやっていうわけでも全然なくて、去年、ギターの教則本とか初めて買いましたもん。上手くなった方がいいかなと思って(笑)。普通に運指の練習とかもしたかったし、音楽の幅がそれで広がったりするかなって。パッションだけでやっているとだんだん飽きてくるし、同じことばっかりになってくるから。

――4曲目に収録しているNOKKOさんのカバー「人魚」はどういう経緯で選曲したのでしょうか。

北里:バンドの忘年会をやっていた時に、光永くんが酔っぱらいながら「いいよねーこの曲」って言ってて、その場のノリでやろうかってなりました。でも、そのままやっても面白くないから、ロバート・グラスパーだったかなんだったかの曲のリズムパターンのイメージでやってみようってアイデアが出て。あと、カバーする前に「バラードっぽく歌うのは無し」って決めていて。だって歌詞とか一つも共感できないから、情感たっぷりのアプローチが出来ないし。ミックスもはじめはもっとモヤがかったウェットな感じになっていたんですけど、僕の要望でもっとドライにしました。

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Alfred Beach Sandalこと北里彰久。

「『一体にならないだろう』と思っていた人と、瞬間的に握手しちゃった時は嬉しい」(北里)

――北里さんは王舟さんの『Wang』についてはどう思いますか? CD版は発売からもうすぐ1年になりますが。

北里:『Wang』自体はずっと作っていて、なかなかできない過程も見てたので、客観視できない(笑)。「出てよかったな」という気持ちが一番強いです。勝手に感慨深い、みたいな。アルバムが出た後は、誰かがDJで掛けているのを聴いて、「良い感じにチャラくて面白いな」と思ったり。

――「チャラい」って面白い表現ですね。

北里:気持ちが乗っかりやすいというか…。

王舟:それは気に入っているところなんですよ。カントリーやフォークのようにシビアな音楽を形式だけ踏襲して、“スタイルの良さ”だけを見せたかったから。だからチャラかったりユルい感じで今っぽい雰囲気に出来ていると思うんです。60年代のイギリスの人たちがブルースのカバーをやってポップな感じにしているとか、そういう感覚に近いですね。

――収録曲の「瞬間」は北里さんがカバーした際に出来たフレーズを王舟さんがアルバムの音源に使った曲ですよね。

北里:そうそう、最初の宅録バージョンで聴いていい曲だなって思っていたけどライブとかで全然やらないから、「なんでやらないの?」って聞いたら「ベースリフ一発だからやりようがない」みたいなことを言っていて。「そうかな」って思って。それでコード進行とかフレーズとか、ちょっとだけアレンジしてカバーしたんですけど。

王舟:すごくポップな感じになったよね。その時のコードを後で教えてもらって、バンドに持っていったら、かなり馴染んだんです。

――ちなみに、2人は録音物とライブの意識の違いをどう捉えられますか?

王舟:相撲で言ったら録音物は稽古で、ライブは試合(笑)。

北里:それはちょっとわかんない(笑)。どっちも試合だけど、種類が違うっていうか。でも球技っていうくらいは一緒かな? わりとライブ感みたいなのがある録音物の方がいいのかなって考えた時期もあったけど、それは全然違うものだと今は思うようになったし。

王舟:録音物はちょっと誇張してやろうと思ったらできるし、わりと自由度は高いけど、ライブは場所も来る人も毎回違うから臨機応変にやらないといけない。でもそれがいいんですけど。もちろん録音物は事前に準備ができるんですが、それが良い方向にも悪い方向にも転がることはあるし。

――2人はライブで観客の反応を見るタイプですか?

王舟:お客さんの楽しそうな雰囲気が伝わってきて、次第に演奏が良くなっていくライブが何回ありました。言葉に出さないけど、本当少しだけ一体感を共有する感じが心地いい。

北里:全然見ないです。もちろん、お互いの感覚が交差した瞬間はすごい快感だけど、煽ったりできるタイプじゃないし、別に何かするわけではないから…。

――緩やかな空気感で繋がるという感覚は、2人のライブを見ていると何となく伝わってきます。

北里:それでも、「一体にならないだろう」と思っていた人と、瞬間的に握手しちゃった時は嬉しい。そのためにやっているようなところはあるけど、だからといってこっちから両手を広げて迎えに行くわけではないし。別に閉じたいわけでもないから、自然に開けていたら一番いいなと思います。

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