パスピエを支える“バンドマジックへの信頼”とは? キャリアを踏まえて最新作を読み解く

バンドマジックを信じて「ポップ」と向き合う

 ここ数年における女性グループアイドルの隆盛やtofubeatsを筆頭としたマルチネレコーズ界隈の盛り上がり、さらには「シティポップ」という曖昧な名称で括られるアンダーグラウンドにおけるバンド群の動き。いくつかの流れが相互に影響し合う中で、「ポップである」ということがリスナーにとって今まで以上に価値を持つ時代になりつつある。

 楽しい、華やかな気持ちになる、心地よいツボをストレートに押してくれる、聴き手を選ばない、擬態語でいうとキラキラ。「ポップ」という言葉が示すこんな概念とどう対峙するか。特にこれまでも「ポップ」を掲げてきたバンドにとっては、このテーマとの向き合い方に自らの思想を投影する必要がある。

 たとえば、自分たちが狙いたいイメージに対して自身の形を変化させながら合わせていくという考え方もある。パスピエとも同時期にインディーズで活動していたふくろうずや人気が急拡大中のShiggy Jr.は、ダンスビートを導入したり状況に応じてメンバーが楽器を持ち替えたりしながら楽曲の魅力を最大限表現しようとしている。

 それに対して、パスピエのアプローチは実はいたってオーソドックスだ。自由自在に見えて、5人がそれぞれの持ち場を着実にキープしながらこのバンドならではの「ポップ」のあり方を提示している。「戦略的」という言葉が似合うバンドを支えているのは古典的なバンドマジックへの信頼、というアンビバレントな構造こそがパスピエの本質である。

 クラシックと大衆音楽、ロックとポップ、戦略とバンドマジック。様々な対概念を包含しながらオリジナルな価値を生み出すパスピエというバンドが、この先どこまで支持を広げるのか。そして、今年最大の目標である武道館公演においてどんな光景が広がっているのか。年末を楽しみに待ちたい。

■レジー
1981年生まれ。一般企業に勤める傍ら、2012年7月に音楽ブログ「レジーのブログ」を開設。アーティスト/作品単体の批評にとどまらない「日本におけるポップミュージックの受容構造」を俯瞰した考察が音楽ファンのみならず音楽ライター・ミュージシャンの間で話題に。2013年春にQUICK JAPANへパスピエ『フィーバー』のディスクレビューを寄稿、以降は外部媒体での発信も行っている。

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