豊田道倫×テンテンコが語る、ロックとアイドルのイリュージョン

豊田「今回の7インチは、いい意味でしょうもないんですよ」

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ーーテンテンコさんはクラブイベントを主催したり、アート色の強い音源や映像を出したりと、BiSとは違う方向性の活動を展開してますね。

テンテンコ:特に自分のなかで今後の方向性をはっきり決めているわけではないんですけど、自分でできることをやってみたいとは思っています。BiSのときは、衣装も楽曲も全部用意されたものをやっていたので、“作られている自分”みたいなのを感じていて。それはそれで楽しかったんですけれど、最後の方は「もうちょっとこういう風にしたいな」という気持ちが芽生えていました。BiS解散後はいろんなところから誘いもあったんだけれど、それはBiSのテンテンコだから呼ばれているので、たぶん同じことの繰り返しになって、不満はどんどん溜まっていくんだろうなと思いました。だから、少し不安定にはなるかもしれないけれど、先々のことを考えてフリーという選択をしました。

ーーフリーになって、新しくファンは増えているのでは。

テンテンコ:新しいファンもいます。私、誰もいなくなると思っていたんですよ。私がやろうとしている音楽は全然アイドルっぽくないし、BiSみたいにゴリゴリのロックでもないから。誰もついてきてくれなくて、お客さんがいない状況になるんだろうなぁって、覚悟してやっていたんですけど、案外、みんなそのまま楽しんでくれていて。もちろん、来なくなった人のほうが多いですけど、思ったよりは来てくれた。たぶん、BiSを好きだって言っていた人は、アンテナを色んな方向に張っていて、面白いと思ったら素直に面白いと言ってくれるというか、ついてきてくれるんだと思う。

豊田:鈴木慶一さんの新バンド(Controversial Spark)のイベントで、テンテンコさんたちのグループと一緒になったけれど、今はジャンルに関係なく一緒にイベントをやったりするのが増えてきたよね。とくにテンテンコさんは、良い意味でノーガードというか、鈴木慶一さんとも臆せずに一緒に出れるところとか、すごいと思う。そういうことって意外にできないことなんだけど、彼女は数も結構やっているし。

テンテンコ:でも、やったあとに不安があったりしますけどね。大丈夫だったのかな、みたいな(笑)。

豊田:(笑)でもそういう意味では、最近はミュージシャンがどんなに変わったことをやっても、あまりびっくりされなくなってきているかもしれないね。だから、自分が作るときは逆にいろいろ考えちゃうし。

ーー今回、豊田さんとmtvBANDの『I Like You』と、テンテンコさんと滝沢朋恵さんによるユニット“フロリダ”の『右手左手』、それとBabiさんと佐藤優介さんによる新ユニット“Ventla Ventla”の『Rendlesham / EBE』の3枚が、4月18日の〈RECORD STORE DAY〉にアナログ7インチで発売されます。豊田さんは今回、バディ・ホリー流のロックンロールで。

豊田:今回の作品に関しては単純に、バンドでスリーコードのロックンロールをやろうと思って。シンプルだけど、一番自分から遠かったこともあって。結構、手間をかけていて、ミックスも試行錯誤して、はじめはステレオでふったけど、ステレオはやっぱりちゃうわって、普通にモノラルにしてもらったりして。でも僕は、アナログとかはまったく興味がなくて、むしろ日本のレコードは音が悪いっていうイメージがあったんだよね。もともと、レコードっていうのはマスターテープから作るものだけど、今は全部マスターがCDだからCDより悪い音になるわけで。だからレコード作るって馬鹿じゃんって言ってたんですよ(笑)。でも、最近やっと、ちょっといい音が鳴るって聞いたときに、なりすレコードの方と偶然街で会って、一緒につくろうって言われて作ってみたんですよね。

ーーテンテンコさんと滝沢朋恵さんの“フロリダ”はハプニング性のある音を展開していて面白かったです。今後も継続的に活動をするんですか。

テンテンコ:はい、お互いひとりの活動もあるんですけど、今後はふたりでもガッツリやっていこうと思っています。高校生のときにふたりで、家にあったおもちゃとか、持っている楽器とかを持ち寄って、カセットテープで録音したりとかしていたのですが、私にとってはそれが原点だったんですよね。それをおたがい、またやりたいなあとずっと思っていて。でも、ふたりとも大学がバラバラになって、私もBiSに入って、なかなかできなかった。それで、BiSを辞めたときに、今だと思ったんですよ。滝沢さんも、ちょうどアルバムを出したタイミングだったんで、今やったらすごく面白いんじゃないかなと思って。私、いやらしいのかもしれないんですけど、BiSをやっていたおかげで、それを面白いと思ってくれた人がなんとかついて来てくれる状況になっているから、じゃあ一番最初にやっていたことを今やったら、どういう反応されるんだろうっていう期待がある(笑)。滝沢さんは全然アイドルシーンの人じゃないけれど、敢えてこっちに連れてきたら、どうなるんだろうみたいな。そういうのを見てみたいです。ライブもちょこちょこやり始めています。

ーー豊田さんは最近のライブはどうですか。

豊田:自分のことは、あまり自分ではわからないけど、いろいろな人のライブには行っているんですよ。ほとんどが60歳以上の人とか(笑)。早川義夫さんとか、友部正人さんとか、あがた森魚さん、金森幸介さんのライブを観ていて、やっぱりいい曲作っているんですよ。それが一番かっこいいなと思っていて。特に、あがたさんがいま、新曲をガンガン作っていて。それはやっぱり、嫉妬しますね。僕自身は、ライブをちょっと抑えていて、かと言って曲作りに専念したいわけでもなく、自分さえ良ければいいっていうかね。今回のシングルの曲も、リフはずっとあった曲で、それに『8.6秒バズーカー』をパッと組み合わせて、その瞬間に「出来た!」と思って。結構そういうもんだから。テンテンコさんが出した7インチも含めて、いい意味でしょうもないんですよ。

テンテンコ:本当にそうです。

豊田:シングルだからできることで、もうB面なんか……。

テンテンコ:はい、嫌がらせでループカッティングっていうのをやったんです。最初はすごく短い曲を入れてパッと終わりにしようと思ったんですけど、それが延々とループするようにしました。たぶん、プレイヤーが壊れたと思う人もいるんじゃないかな。

豊田:そういうのは好きですね。もともと、ドーナツ盤のB面はフリップサイドといって、しょうがないものっていう意味合いがあったんですよ。もうカスって感じの曲。

テンテンコ:本当にそんな感じです(笑)。

豊田:それは普段、なかなかできないんですよ。あまりA面、B面とかで遊んだりしない。つい、いい曲を作っちゃう(笑)。普段はそれでもういいやって、そのまま放置しちゃうんだけど。今回は遊べるチャンスを作ってもらったので、感謝しています。

テンテンコ:そうですね。7インチを自分で作ろうと思っても、なかなか手を出せないから、こんな機会をもらわないとやらなかっただろうなあと。

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