市川哲史の「すべての音楽はリスナーのもの」第8回
嵐が<崖っぷち>アイドルだった頃(中篇) 市川哲史がグループの“仲の良さ”を読み解く
そしてシングル『WISH』。彼らにとっては久々のヒット曲で、この楽曲を契機に嵐のブレイクが始まったと言ってもいい転機だった。冬とは思えないアッパーなポップ感が心地好いシャッフル曲で、いまや嵐の代表曲だが、ヒットの直接的要因はやはり松潤主演のドラマ『花より男子』の主題歌タイアップに他ならない。
『花男』が高視聴率でスタートし、シングルのリリースをいよいよ10日後に控えた彼らが、オリスタの取材現場で規格外の仲のよさを露呈させたのを想い出した。
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松潤「ドラマのオンエア観た人たちのリアクションもめちゃよくて、曲もOPの映像も含めて『超イイ』と言ってくれてます」
櫻井「へー嬉しいねー」
相葉「出た甲斐あったなー」
市川「相葉ちゃん出てないから。でも視聴率も好調だし、遂に売れちゃうんじゃないのこの曲」
櫻井「いや、これはもうひとえに松本さんのおかげですから」
二宮「おかげおかげ」
松潤「嵐の曲として聴いたら最初は違和感あったんだけど、何回も聴いてくとすごく馴染んだし、ドラマにも合ってるし、新鮮だしいいかなーと思って(照笑)」
二宮「“WISH”はコーラスの分量が本当に多くて、でもいつも通り気合い入れて唄いました――というかさ、ドラマで流れて歌番組で唄うと、キタキタ感が出ちゃうんですよ。アレに賭けたいです!!」
全員「だはははは!」
市川「“WISH”の浮沈は松潤の双肩にかかってるのを、くれぐれも忘れるな」
二宮「くれぐれも視聴率は下げないでいただきたい」
全員「ばはははは!」
松潤「肝に銘じて頑張りたいと(失笑)」
二宮「そこだけ頑張っていただければ、あとはなんでもいいので(苦笑)」
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すごい。ねたみもそねみも存在しない、エゴレスなこのグループシップはまさに奇蹟の産物なのだ。その通り、嵐の原動力である。
しかしそれ以外にも、この崖っぷち時代に培われた自己客観性にこそ、嵐のポテンシャルが集約されている気がするのだ。
■市川哲史(音楽評論家)
1961年岡山生まれ。大学在学中より現在まで「ロッキング・オン」「ロッキング・オンJAPAN」「音楽と人」「オリコンスタイル」「日経エンタテインメント」などの雑誌を主戦場に文筆活動を展開。最新刊は『誰も教えてくれなかった本当のポップ・ミュージック論』(シンコーミュージック刊)