tha BOSS feat.般若『NEW YEAR'S DAY』対談

tha BOSS×般若が語る、日本のヒップホップの臨界点「ラッパーの表現の質はどんどん上がっていく」

tha BOSS「他の仕事やってる人と同じように、
挫折を乗り越えてここまでお互い辿り着いたんだ」

――tha BOSSさん的には、2014年はどんな一年だったんですか?

tha BOSS:今年はライブと練習だけだった。だから、辛抱することが多かったっていうか。新しい作品を出した時はやっぱり景気も良くなるし、THA BLUE HERB自体の血流というか代謝が良くなる。お客さんとの交流、金まわり含めて、いろんな意味で活性化する。前のアルバムを出して2年が経って、今年はライブだけで生きてきたわけで、オレらはこういう人間ですっていうことだけで日本中をライブしてたからね。まぁ正直、世の中の景気はあんまり良くないし、そういう意味じゃ今年は我慢の年だったとも言える。ライブの質はどんどん上がっていくんだけど、人が入る時もあればぜんぜん入らない時もある。そんなのいつものことなんだけど、なんとか12月まで来れた。生き残ったなって感じがする。勝ちまくったなっていうよりは、なんとか今年も生き残れたっていうか。

般若:いや、それは勝ってるんですよ。ライブだけでやれてる人なんて、正直今いないですよ。ここはみんなが触れちゃいけないことなのかもしれないけど、凄いリアルですね。人の噂であいつはヤバイ、こいつはキテるとか、そういうのを一回抜きにして、年間通して地に足着けてやれてる人はそんなにいないですよ。BOSS君は自分よりも世代は少し上の人で、BOSS君世代でちゃんとやってる人って、僕から見てBOSS君しかいないんですよ。これは500%間違いないと思うんですけど(笑)。だから、俺はすげぇと思うんです。生き残ってるってことはすげぇことで、やってること自体が凄い。まあ、俺もいつまでできるかわからないけど。

tha BOSS:まあ、俺はたまたまできたけど、同じように俺と同世代でラッパーやってるけど、それができなかったヤツは何をやってたかといえば、やりたくもねぇ仕事をしてたのかもしれない。でも、そんなの街中を見てみれば、みんな大変なんだよね、生きていくっていうのは。

般若:「NEW YEAR'S DAY」は、本当そういうのを全部含めての曲になってるのかなって思いますね。

tha BOSS:確かに。

般若:たまたま我々がラップという表現を通して作っただけであって。

tha BOSS:曲は突き抜けてるんだけど、その根底に流れてるのは、やっぱり挫折なんだよね。般若がこないだ出したアルバム『#バースデー』を一つ取ってみても、楽しかったことと同じ数だけ挫折があったというのは一目瞭然だし、ラッパーやりながらも、他の仕事やってる人と同じように挫折を乗り越えてここまでお互い辿り着いたんだ。

般若:その通りです。

tha BOSS:バックトラックはどこまでも突き抜けてるんだけど、俺のバースの“お疲れさん”も含めて、曲の中にはいろいろな悲しみや涙が実はちゃんとあるんだよね。やっぱみんな大変だし、俺も生き残るのが大変だったから、敢えてここは“お疲れさん”で締めようっていうようなところまで行くわけで。根底に流れているのは挫折なんだよね。傷であったり。

般若:俺、“お疲れさん”って入ってきた時に、なんて優しい曲なんだろうって思ったんですよ。そんなこと言われたことないのに(笑)。

――でも、そういうふうにトラックの曲調とリリックの内容の対比で奥行きを出すというか、そういう醍醐味ってヒップホップならではだと思うんです。

tha BOSS:ヒップホップだね。挫折から始まってるよ、ヒップホップは。

般若:挫折から始まってないヒップホップが多すぎる(笑)。嘘つけこの野郎って(笑)。

tha BOSS:俺らなんか特にそうだから。ルーザーだから。

――こういう味わい深さみたいなのって、なかなか出せる人って少ないと思うんですよね。

般若:まぁまぁいい歳だからじゃないですかね、現実的に(笑)。そういうのを自然に言えるようにもなったんじゃないかなとは思います。

tha BOSS:ネクスト・レベルだよ、これからの日本のヒップホップは。本当にそういう世界に突入していく。現実に世の中はどんどん廃れていくしさ。ラッパーはどんどん表現が成熟していくから、やっぱりそこに視点を向けるし。世の中のことを歌うことだけがすべてではないけど、歌うには十分すぎるくらいの没落具合を見せるはずだから、この国は。でも、ラップの表現の質はどんどん上がっていく。俺が1番ヤバいっていうよくある視点から、もっと上のレベルに曲自体の質が上がっていくはずだよ。

般若:俺の場合は、たまに自分みたいなヤツの曲を聴いて、少しでも笑ってもらえればいいやっていうくらいの感覚でしかやってないです。だから「NEW YEAR'S DAY」を聴いて、バカだなこいつって思ってもらえればいいっていうか。“結婚発表した日に被害届出されたって何?”みたいな(笑)。そういうところで笑ってもらえればいいかなって。

tha BOSS:でも、その歌詞には意外といろんなものが詰まってるんだよね。般若の今回のバースも、最初に聴くのと何回も聴くのとでは印象が違う。俺的には後でどんどん効いてくるというか。

般若:後効きだと思います(笑)。

tha BOSS:俺より単語が少ない分、言葉の表現がシンプルになってるんだけど、凄いと思わせる何かがあるんだよね。“俺より辛い思いしたヤツいんのかよ”っていうようなところまで、ふっとみんなを連れて行く力がある。

般若:「NEW YEAR'S DAY」もBOSS君のリリックに比べると、俺の方が言葉の数が圧倒的に少ないじゃないですか。でも、BOSS君の今回のリリックですべてを表してるのは、“俺独り良けりゃじゃねえ/ちゃんと連れてく”ってところで、この“ちゃんと連れてく”って言葉にすべて含まれてる気がします。置いてけぼりにするようなラップも、まぁそれも時として俺は必要だとも思うんですよ。みんな説明を求めたがるじゃないですか。だけど自分は、「これはどういう意味なの?」「知るか!」って感じのタイプの人間だと思っていて。それ以上でもそれ以下でもねぇ。お前がそう思うならそうだろっていう。それでいいんですよ。もうちょっと感性に対してお互い豊かになっていくべきだと思うから。そういった意味では、俺は最近リスナーの心が少し貧乏になってきたのかなって正直感じるんです。それは俺の実力不足なのかもしれないけど、そう感じる時があります。でも、ライブは理屈じゃない。作品は勝手にみんなが解釈してくれればいいと思うんですよね。

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