一般家庭のリビングでライブも……現役パンクロッカーが米国ツアー最新事情を報告

Van-baggedgeth_.jpg
日本の機材車と違いかなり大きい。それでもツアーメンバー総勢9人の荷物と楽器、アンプ、ドラムセット、マーチャンダイスを積むといっぱいになる。

 筆者がボーカリストを務めるバンド・FORWARDが『BURNING SPIRITS NOTH AMERICAN TOUR2014』と題したツアーを、2014年10月29日から11月24日にかけて行った。アメリカ・オレゴン州ポートランドから西海岸を下り、サンフランシスコ、ロスアンゼルスからテキサス、ニューオリンズからワシントンD.C。そこからニューヨークまでの東海岸、ボストン、カナダのモントリオール、トロントなどを約3週間かけて回り、19カ所20回のライブをしてきた。

 日本にもアメリカにもPUNKシーンというものがある。色々なバンドがいて音楽性も多種多様だ。メジャーからリリースをしていて超が付く程有名なバンドもいれば、地元でしかライブをやった事のない無名ローカルバンドまで様々だ。筆者が経験して来たツアーは、日本でもアメリカでも、いわゆるアンダーグラウンドに属するPUNKシーンである。

 この連載では、過去3回のアメリカツアーと、友人のバンドに一度同行した際のアメリカツアー、そして今回と、合計5回のアメリカツアー経験の中から、アメリカのPUNKシーンなどについて、計4回にわたって書いていきたいと思う。

 リアルなアメリカPUNKシーンを少しでも感じてくれれば幸いだ。

アメリカPUNKシーンは“ハウスショー”がおもしろい

boston-ampth_.jpg
ボストンのライブハウスでの持ち込み機材。マイクやとマイクスタンド・PAシステム以外のドラムセット、アンプは全てバンドの持ち込み機材。ギターアンプのスピーカーにDISCHARGEのLPジャケットをそのまま描いている所にD-BEATのバンドならではの特徴がある。

 日本でもアメリカでも、世界中のどの国でもアンダーグラウンドPUNKシーンにいる人間は確実に貧乏だ。どうすれば金がかからず最高のライブを出来るかを考えている人間が多い。日本のライブハウスの中には法外なノルマを課しバンドを食い物にするところもあるが、そういったやり方と決別し、自分達の手でやっていく事を選んだのが世界中にいるアンダーグラウンドのPUNKS達である。そして、そのPUNKS達は世界中で繋がり合っている。その中のアメリカシーンを紹介して行きたいと思う。

 基本的にアメリカのバンドの多くは、一月の賃料を払ってスタジオを借りていて、そこで練習するのはもちろん、自前のギターやベースのアンプ、ドラムセットなどの機材の保管場所になっている事が多い。他には何人かでシェアして住んでいる家の地下室などに練習スタジオスペースを作り、そこで練習と機材の保管を行っていたりもする。

 そんな風にどんなバンドでも機材を持っているので、適した場所とマイク・PAシステムさえあればライブが行える。PAシステムが無い場合にはギターアンプにマイクを差し込み、ライブを行う事もある。

 日本ではほとんど例の無いアメリカ特有のライブと言えば、ハウスショーが一番わかりやすいだろう。文字通り家でライブをやるのがハウスショーで、普通の家のリビングでやる事もあれば、地下室だったり、車のガレージだったりする事もある。

 そこには当然人が住んでいて、ライブ終了後にそのままそこに泊まると言う事も多い。日本とアメリカの住宅事情や一般社会の音楽への理解の違いが大きいのではないかと思うが、初めて体験したときはかなりびっくりした思い出がある。そういったハウスショーはアメリカPUNKシーンでは当たり前となっている。入場料も安いし($5ぐらい。フリーライブもある)ライブもかなり盛り上がっていて面白いので、アメリカでライブを行ったり、観たりする機会があれば是非体験して欲しい。

ツアー中は毎日、最低8時間は移動する

smallvanth_.jpg
機材車が壊れたため借りて来たバン。小さいため、後ろのコンテナに荷物などを積み込み牽引しながらツアーを廻った。

 日本でもアメリカでもバンドがツアーをやる場合、車で回るのがアンダーグラウンドシーンでは一般的だ。ワゴン車に機材や荷物・マーチャンダイス(バンドの物販グッズ)を積み込み全国行脚する。日本であれば長くても7〜8時間の移動で次の街に到着し、サウンドチェックを行い、本番を迎えるのが一般的だが、アメリカともなると移動距離が日本ではあり得ない距離だったりするため、ツアーの大半が移動に費やされる。

 東海岸などは街と街が近く、移動距離が短い場合は4〜6時間で済む事もあるが、基本的には最低8時間は毎日移動すると考えてもらって良いだろう。中には12〜14時間かけて移動してライブをやり、終わった後そのまま次の街へ移動なんてことも稀にある。広くて簡易ベッドなどもある車なら快適に過ごせるが、狭い車でギュウギュウに詰め込み移動ともなると、体調管理や睡眠時間の確保が大変だ。もし海外ツアーなどに行く機会があるなら、良い車である事を願うしかない。

 アメリカのライブはオールエイジショー(未成年や子供でも入れるライブ)でなければ、大抵夜9時〜10時頃に始まる。それは平日だろうが週末だろうが変わらない。そのため出番が最後となると夜12時を過ぎてからライブをやるという事がザラにある。それでもお客さんは観に来るし、最後まで残っている。
今回のツアーのニューオリンズでは、車が故障し、到着が平日月曜日の夜中2時過ぎになってしまったにもかかわらず、沢山お客さんが待っていてくれて感激した。ニューオリンズという街はバーやライブハウスが朝まで営業出来るのでライブが可能だったが、大抵の場合、アメリカは夜中の2時頃にはバーなども閉まってしまうのでこのケースは稀だろう。

 そうやって移動をしながら毎日ライブを行う。日本であれば何日かに一日オフ日があるが、今回のアメリカツアーは24日間で20回のライブ。過去には滞在日数よりもライブの数の方が多いツアーや、17時間で3回のライブをやった経験もある。当日や前日に急遽ライブが入る事もザラにあり、逆に事情により当日ライブがキャンセルになる事や、いきなりライブハウスが変更される事、ライブが始まってから中止になることもあるので、アメリカのツアーは確実に日本よりもハードである事は間違いない。しかし臨機応変に対応や判断をしなければならない事や、日本では決して出来ない体験も出来るので、バンドとしても人間としても鍛えられ、成長する事も確実だ。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる