NMB48、最新作に込められた山田菜々へのメッセージ “明るい卒業”を見据えたグループの動向を読む
山本、渡辺と並ぶ中心人物でありながら、48グループ内での山田の立ち位置は、他の二人に比べると必ずしも恵まれたものとはいえなかった。チームNのオリジナル公演「ここにだって天使はいる」が発表されたのも山田がチームNからMへ異動して以降のこと、山田はNMB48オリジナルの劇場公演を手にすることもなかった。それだけに、グループ単位での活動を考えた時、山田の卒業は何かを積み残したような一抹の心残りも覚える。しかし同時に、彼女の卒業発表は、寂しさや虚しさで覆われるようなものとは少し違っていた。もちろんそれは、山田がグループ内での活動に限らず世間的な認知を高めていたことで、卒業後の活動の見通しが比較的明るいものだからということも大きい。しかし同時に、山田の周囲のメンバーたちのリアクション、気遣いながらも常と同じ楽しさをキープしようとするMCは、本来どうしても寂しさで温度が下がりがちな卒業発表特有の空気を中和するものだった。
そうした山田への敬意と親しみの現れは、現場ばかりでなくSNS上でも見受けられた。山田は同日、Twitterを開始することを表明したが、その夜に山田がアカウントを開設するのに伴走するように、他の多くのNMB48メンバーもTwitterのアカウントを開設してすぐさま活発なやりとりを始めた。それは、ついさっきの卒業発表の感傷を早々に置き去りにして、これからの彼女たちの行く先を照らすような、山田のこともグループのこともひっくるめて前に進む宣言のような、頼もしい喧騒だった。メンバーのTwitterアカウント開設そのものは、事前に運営の方針として企画されていたに違いない。しかし、そのツールを用いて早くも山田を囲みながらそうしたムードを構築できたのは先述したような、各人がグループ内の立ち位置にかかわらずキャラクターを押し出して存在感を発揮できる、拮抗した空気の賜物でもあったように思う。
こうした空気の中で山田が卒業の準備を進められることは幸いだし、センターではなくとも世間的な認知を獲得してグループ卒業後の活動に入る山田の姿は、NMB48の後進メンバーのひとつの指針にもなる。一方で、新たなセンターを迎えて次の段階に入るグループ自体も、まだ山本、渡辺と新進メンバーらがどのようなパワーバランスを展開していくのか見えない状況だし、柏木という48グループの巨星がNMB48と溶け合ってゆくのもこれからだ。来春の山田卒業までの期間にも、グループのダイナミクスはまだ活発に動いていきそうだ。
■香月孝史(Twitter)
ライター。『宝塚イズム』などで執筆。著書に『「アイドル」の読み方: 混乱する「語り」を問う』(青弓社ライブラリー)がある。