ゲスの極み乙女。の新作における、ちゃんMARIの重要性とは? 鍵盤を使った若手バンドも紹介

 そして、このクラシック路線の極めつけが、アルバムのラストナンバー「bye-bye 999」。ピアノに加え、ゲス乙女としては初となるストリングスも導入された、実に美しい一曲である。このストリングスのアレンジを手掛けたのもちゃんMARIで、彼女のアカデミックな作編曲能力は、そのままバンドのさらなる可能性だと言っていいだろう。また、「bye-bye 999」のラストでは、ダーティー・プロジェクターズばりのテクニカルな女性コーラスも登場。つまり、この曲はUSインディを中心としたチェンバーポップの流れともリンクするものであり、言ってみれば、ゲス乙女におけるちゃんMARIの存在というのは、今年のフジロックでひさびさの来日を果たし、圧巻のステージを繰り広げたアーケイド・ファイアにおける、オーウェン・パレットのようなものになっていくのかもしれない。

 では、今度はゲス乙女にも通じる、鍵盤奏者を含む注目バンドを紹介しよう。本稿ではここまで「クラシック」をキーワードとしたが、「ジャズ」というのももちろんゲス乙女の特徴で、『魅力がすごいよ』においては、「星降る夜に花束を」や「光を忘れた」あたりで、ジャジーな側面が強調されている。川谷はクラムボンをフェイバリットに挙げていて、それはクラムボンのジャズの側面というよりは、多面性に影響を受けているのだとは思うが、そのクラムボンのミトがプロデュースを手掛け、今年メジャーデビューを果たしたのが、SEBASTIAN Xとテスラは泣かない。だ。SEBASTIAN Xは工藤歩里、テスラは泣かない。は飯野桃子と、共に鍵盤奏者が女性という点でもゲス乙女と通じるこの2組は、フレーズの反復を基調とするプレイスタイルも近いが、「ダンサブルなロック」という点で、テスラは泣かない。の方が、よりゲス乙女に近いと言える(最後に「。」がついてるのも一緒だし)。

 一方、よりジャンルとしての「ジャズ」に近いバンドとしては、“ロバート・グラスパー以降”と言われる、新たなジャズの潮流ともシンクロするEmeraldとfox capture planの2組を紹介したい。ジャズやソウルを基調としつつ、フィッシュマンズにも通じる伸びやかなボーカルを核とするEmeraldと、インストのピアノトリオ編成ながら、ロック畑のドラマーをメンバーに据えることで、ジャズとロックを独自の方法論でかけ合わせ、水嶋ヒロ出演のCM曲が話題を呼んだfox capture planはそれぞれ異なる魅力を持つが、そのエレガントな雰囲気は、共にゲス乙女と通じるものがあると言っていいと思う。

 最後に、京都のインストバンドであるjizueは、クラシック出身のピアニストだった片木希依が、ロック畑出身のメンバーと出会って化学反応が起きたという意味で、ちゃんMARIのヒストリーとも近いものを感じる。また、彼らの最新作『shiori』には、ラッパーのShing02をゲストに迎えた「真黒」という曲が収録されているのだが、この曲の「プログレ、ジャズ、ラップ」といった要素を抜き出すと、やはりゲス乙女と通じるものが見えてくる。『魅力がすごいよ』の鍵盤の魅力にはまった人は、ぜひこれらのバンドも聴いてみてほしい。

(文=金子厚武)

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