「寺嶋由芙」というドキュメンタリー 彼女がステージ復帰後1年でたどり着いた場所とは?

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Photo by 加藤一華

 その「猫になりたい」をさっそく歌うのかと思いきや、11月23日の東京大学駒場祭への出演決定、12月20日の「#ゆっふるーむ Christmas Special『フレンズ vol.3』」のゲストがDorothy Little Happyであることなどが次々と発表された。

 さらに最大の発表は、2015年2月8日に渋谷WWWでのワンマンライヴ『Yufu Terashima 1st Solo Live #Yufu Flight』が決定したということだった。2013年10月22日に寺嶋由芙が初の全曲オリジナルライヴをしてから1年。そのタイミングでワンマンライヴが発表されたことは感慨深い。1年前の初の全曲オリジナルライヴのとき、寺嶋由芙の持ち曲は4曲しかなかったのだから。そこから2014年に入って、『#ゆーふらいと』『カンパニュラの憂鬱』『猫になりたい』と3枚のシングルをリリースすることになり、さらに会場限定盤『好きがはじまる』や、Dorothy Little Happyの高橋麻里とのユニット・ユフマリでの配信シングル「HOTARU」もあった。めまぐるしくリリースを重ねて、遂に来年ワンマンライヴをするまでになったのだ。彼女がステージに帰ってきてからあっという間の1年間だった。

 「猫になりたい」は昼公演の本編ラストで初披露された。80年代テイストの楽曲で、「2度聴いて覚えられない曲は採用しない」と公言するディレクターの加茂啓太郎がシングルに選んだのも納得のキャッチーさだ。作詞はジェーン・スー、作編曲はrionosという「カンパニュラの憂鬱」と同じ作家陣。rionosは、9月3日にリリースされたTOWA TEIの「94-14 COVERS」にも共同アレンジャーとして参加している。

 さらにカップリングでは、なんとマドンナの1984年の大ヒット曲である「ライク・ア・ヴァージン」をカヴァーしているのだ。英語詞のままで。このアレンジは、アップアップガールズ(仮)などへの楽曲提供で知られるPandaBoYが担当しており、BPMを原曲より上げ、かつ絶妙に90年代寄りにしたサウンドを聴かせる。この「ライク・ア・ヴァージン」は、夜公演の本編ラストで初披露されたが、振り付けはDorothy Little Happyの早坂香美で、動きが激しいことにも驚かされた。

 カップリングには、ふぇのたすのヤマモトショウが作詞作曲し、MOSIC.WAVが編曲した「ねらいうち」も収録される。4形態でリリースされる『猫になりたい』では、サンリオとのコラボによる「ポムポムプリン盤」(ポムポムプリン コラボレーション スペシャルパッケージセット)もリリースされる。

 そして我が目を疑ったのは、終演後に配布されたフライヤーだ。初回限定盤以外の3形態には、アヒト・イナザワによる「カンパニュラの憂鬱(アヒト・イナザワRemix)」が収録されるというのだ。そう、かつてナンバーガールやZAZEN BOYSのメンバーで、現在はVOLA & THE ORIENTAL MACHINEで活動する人物だ。同じくナンバーガールだった田渕ひさ子が、Buono!の「初恋サイダー」のMVに出演したのが2012年。そして2014年には、向井秀徳がライヴで元BiSのテンテンコとデュエットし(9月12日渋谷THE GAME)、中尾憲太郎がyounGSoundsのライヴでせのしすたぁとコラボし(9月2日下北沢SHELTER)、そしてアヒト・イナザワが寺嶋由芙のリミックスをする世界線に突入したというわけだ。

 BiS脱退後に半年ほどの空白を経て歌手としてステージに戻ってきた寺嶋由芙には、さまざまなコンテクストが複雑に、しかも新鮮な驚きとともに付加されるようになった。この記事に出てこない作家陣の名も挙げると、でんば組.incの夢眠ねむ、西浦謙助、ハジメタル、Shiggy Jr.といった具合だ。それは加茂啓太郎をはじめとする周囲の人々の目利きによるものなのはもちろんのこと、「アイドルそのもの」として真摯であろうとする寺嶋由芙が引き寄せていると感じられる部分も確かにあるのだ。

 アンコールは、昼夜公演ともに寺嶋由芙とバンドじゃないもん!によるコラボで、昼公演はバンドじゃないもん!の「パヒパヒ」、夜公演は寺嶋由芙の「好きがはじまる」が歌われた。夜公演では、寺嶋由芙とバンドじゃないもん!の両方に楽曲提供し、この日は関係者席で見守っていたミナミトモヤが紹介され、そして「好きがはじまる」が歌われると「好きがはじまるTO」(この楽曲自体のトップオタという意味である)がフロアでリフトされていたのも、馬鹿馬鹿しくも感動的だった。

 バンドじゃないもん!は2015年2月7日に新宿BLAZEでワンマンライヴをし、その翌日に寺嶋由芙は渋谷WWWでワンマンライヴを開催する。寺嶋由芙にとって初のワンマンライヴだ。それを成功させるために、『猫になりたい』のリリースを挟みつつ、寺嶋由芙が今度はどんな趣向を凝らしてくるのかを楽しみにしたい。きっと寺嶋由芙ならではの、楽しくてゆるくて、ときに胸に迫るものがある現場を多くの人々が体験することになるだろう。

 そして、2013年からスタートした「寺嶋由芙」というドキュメンタリーが、2015年へと続くことを素直に喜びたいのだ。

■宗像明将
1972年生まれ。「MUSIC MAGAZINE」「レコード・コレクターズ」などで、はっぴいえんど以降の日本のロックやポップス、ビーチ・ボーイズの流れをくむ欧米のロックやポップス、ワールドミュージックや民俗音楽について執筆する音楽評論家。近年は時流に押され、趣味の範囲にしておきたかったアイドルに関しての原稿執筆も多い。Twitter

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