宇野維正が『アート・オフィシャル・エイジ』『プレクトラムエレクトラム』をWレビュー

久々の大傑作!? プリンス、2枚のニューアルバムの聴き方

 今回の『アート・オフィシャル・エイジ』と『プレクトラムエレクトラム』の成功の理由も、そこにあると自分は考える。相変わらずの気まぐれからなのだろう(そもそも今年春にワーナーとの再契約が発表された時には『パープル・レイン』30周年盤のリリースが予告されていた。もう30年過ぎちゃったじゃないか!)、アルバムの2枚同時リリースが突然発表されたわけだが、結果的に『アート・オフィシャル・エイジ』は主にプリンス一人による多重録音によるミニマルなファンクアルバム、『プレクトラムエレクトラム』はバンドサウンドによる古典的なファンク/ロックンロールアルバムと、それぞれサウンドの焦点が絞られたものとなった。両方の作品には「ファンクンロール」という、そのものズバリ、ファンクとロックンロールを合わせた造語が冠せられた同名曲が収められている。オーソドックスなバンドスタイルによる怒濤のファンクチューンとなっている『プレクトラムエレクトラム』バージョンと、ズタズタにデコンストラクションされたトラックをカミーユ(プリンスの別人格とされる回転数を上げたボイス)が妖しく徘徊してやがて絶頂を迎える『アート・オフィシャル・エイジ』バージョン、この2曲を聴き比べれば、両作のキャラクターの違いは一目瞭然ならぬ一聴瞭然だ。

 最後に自分の評価を。『プレクトラムエレクトラム』もボーカルやギタープレイを筆頭に、主にライブパフォーマーとしての往年のプリンス節を堪能できる最高に楽しい作品だが、やはり本命は『アート・オフィシャル・エイジ』の方だ。『ラブセクシー』までのような底知らずの得体が知れないような圧倒的な凄味には至っていないが、長年のファンとしては「こんなプリンスのアルバムがずっと聴きたかった!」と叫ばずにはいられない快心のアルバム。『アート・オフィシャル・エイジ』の内ジャケのアートワークには、こんな言葉が記されている。

「かつて音楽が、身体にとって、魂にとって、心にとって、霊的な癒し(スピリチュアル・ヒーリング)となっていた時代があった……」(there used 2 be a time when music was a spiritual healing 4 the body,soul, & mind…)

 ちなみに、その下にレイアウトされている全13曲のタイトルは、A面6曲、B面7曲と、アナログレコード時代の流儀ではっきりと区切られている。『アート・オフィシャル・エイジ』は、音楽が人間にとって大切なあらゆるもの(自分自身の魂の救いや信仰心も含めて)を統治していたあの黄金の時代へと回帰することを、プリンスが自らに任じた、20数年ぶりの本当の意味での完全なる復活作なのだ。お帰りなさい、プリンス。

■宇野維正
音楽・映画ジャーナリスト。音楽誌、映画誌、サッカー誌などの編集を経て独立。現在、「MUSICA」「クイック・ジャパン」「装苑」「GLOW」「BRUTUS」「ワールドサッカーダイジェスト」「ナタリー」など、各種メディアで執筆中。Twitter

関連記事