市川哲史の「すべての音楽はリスナーのもの」第2回

SMAPの新作アルバムが示した「底力」 アイドルの概念を一変させた5人はどこに向かう?

 そういう意味でSMAPとは、実は最新流行サウンドを一般ユーザーに翻訳・紹介してくれる<優良音楽ジャンル>だったのである。

 さて――2年ぶりで2枚組でリリース翌日から同名コンサート・ツアー開始、とSMAP21枚目のオリジナル・アルバム『Mr.S』もまた、相変わらずのそんなSMAPスタイルだ。

 でもって今回初登場の作家陣で特に目を惹くのは、和田唱(トライセラトップス)・いしわたり淳治(exスーパーカー)・大竹創作(乙三)・川谷絵音(ゲスの極み乙女。)・津野米咲(赤い公園)など、懐かしいスニーカー系(失笑)から最新個性派までバンド系の人材が豊富なことか。おかげで妙に落ち着きなくてポップだったりする。

 そんな多彩な足回りのよさが、「いい歳こきましたけど俺たち、まだまだ全然落ち着いてないんスよ」的な現役感を主張している気がする。そうなのだ。《斜陽からの脱出》こそが今回の裏テーマなのだ、と勝手に思おう。

TVというメディア・パワーを徹底的に利用できた最期のアーティスト

 誰も口にはしないが、SMAPの全盛期が既に過ぎ去ったことは皆知っている。

 もう何年も前から、シーンの頂点に君臨しているのは嵐だ。“世界に一つだけの花”以降CDセールスが長期下降傾向にあったSMAPに反比例するかのように、嵐はデビュー10年目の2008年に年間シングルチャートの1位2位を独占すると、翌09年から年間アルバムチャート1位を、2012年以外は毎年獲得し続けている……あ、この御時世にCDセールスの話をしても説得力がないよなぁ。もっとわかりやすい例を挙げる。

 2006年から中居正広が務めていた『紅白歌合戦』の白組司会が、2010年から嵐に禅譲された。SMAPもしくはメンバー出演のTVCMが激減する中、嵐にはキリンビール・任天堂・日立・JALなど超一流クライアント様のCM出演が殺到したのも、同年だったと記憶している。特に、香取慎吾から櫻井翔にさっさと交替した味の素の冷凍食品のCMを初めて観た日の夜、人気商売の儚さに枕を濡らした私なのであった。

 いくら彼らがスタイリッシュな音楽モードに昇華させたとはいえ、アイドル歌謡はアイドル歌謡――SMAPのアーティスト・パワーが落ちた最大の理由は、言うまでもなく経年疲労である。未だに第一線で活躍しているとはいえ、四半世紀以上も前に結成されたアイドルグループなのだから。おいおい、唄って踊ってるよ殿堂が。

 と同時に、ここ10年来続く大衆メディアとしてのTVの凋落とSMAPの現状がシンクロする。そもそも40代が4人も占める現在でもSMAPが現役アイドルとして成立するのは、TVというメディア・パワーを徹底的に利用できた最期のアーティストだからに他ならない。たとえば彼らのコンサートが常に、彼らが90年代から身体を張り培ってきたTVバラエティー的感性の巣窟なのも、その発露といえる。

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