キーパーソンが語る「音楽ビジネスのこれから」第1回

LD&K大谷秀政社長インタビュー「CDの売上が3分の1でもアーティストが存続できる形を作ってきた」

 

「いろんな人がいたほうが人生は面白くなる。理想は『奇人たちの晩餐会』」

――本にも書かれていますが、ポピュラー音楽にはアートという側面があり、それを追求していくとビジネスとしての継続性がなくなってしまうこともあります。逆にビジネスを追いすぎると、違う意味での袋小路が待っている。このあたりについて、改めてご意見を聞かせてもらえますか。

大谷:芸能事務所はまた別として、ほかの音楽プロダクションの方って、これだけ売れたり売れなかったりが激しいシーンで本当によくやっていると思いますけどね。うちがやっている飲食は「水商売」だと言われますけど、音楽は「空気商売」だから、もっと簡単に状況が変わるでしょう(笑)。

 正直なところ、僕はロックバンドの活動を当てにして飯を食いたくないんですよ。例えば、12年8月にガガガSPの桑原康伸(ベース)が急性膵炎になって、ツアーが休止になったことがあって。そのときに言ったのは、「売れているときにずいぶんいい気持ちにさせてもらったし、バンドをやっている限りはずっと面倒を見るよ」と。ロックバンドなんて不安定なものだし、何かあったときに安定して食べさせてあげるためにお店をやっている部分はありますよね。

――カフェ事業には音楽を支える基盤という意味もあると?

大谷:店はアーティストよりは言うことを聞くんで、楽は楽ですよね(笑)。自分でコントロールしやすいというか、「自分が行きたい店」を作れば、まあまあ計算はできる。アーティストに「自分が聴きたい音楽」を作らせるのは難しいし、そんなことをしても仕方がないから。

――現在、音楽と飲食の事業としての構成比はどれくらいでしょうか?

大谷:本を書いたときは音楽が60%という感じでしたけど、いまはお店の数が増えたので、トントンくらいですね。飲食の事業を管理しているのは僕を含め4人で、規模を考えると少ないほうだと思います。店長がしっかりしてし、わりとほったらかし経営なんですよ。大きなジャッジメントや全体のコンセプト、6~7割のところまではこっちでしっかりやって、あとはだいたいお任せです。現場のスタッフに“やらされている感”が出るとモチベーションが下がるし、自分のお店だというマインドを持ってほしくて。そっちのほうが現場も楽しいと思うんですよね。

――大谷さんご自身が音楽から得てきたセンスや感覚は、お店づくりに反映されていますよね。その感覚を言葉にすると、どういうものでしょうか。

大谷:音楽でも空間でも、どこかに影があるものを好む傾向にありますね。少なくとも、順風満帆でニコニコ育ってきました!という感じではない(笑)。うちの音楽でいうとロックが多いんですけど、若干のマイノリティさは感じますよね。ガガガSPなら、阪神淡路大震災でろくに受験もできなかった“震災っ子”だし、お店のスタッフも、なるべくちょっと変な人、尖っている人がいいなと思ってます。いろんな人がいたほうが人生は面白くなるし、そういうものを目指してはいますね。上海での事業も、いろんな国からビックリ人間を集めるような感じにしたかったんですよ。理想は『奇人たちの晩餐会』(98年のフランス映画)ですね。

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