「嵐には理想的な人間関係がある」明治大学の名物講師がグループの魅力を語る

嵐メンバーの関係性を精神分析学で分析

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美男論の提唱者として、日本のジャニーズウォッチャーの第一人者との呼び声もある関修氏。

――本書では、フランスの精神分析家、ジャック・ラカンが提示した「四つのディスクールと資本のディスクール」という“言説のネットワーク”を使って、嵐メンバーの関係性を読み解いています。関さんが考えるメンバーそれぞれの特徴を改めて教えてください。

関:まず櫻井くんについては、僕は「大学のディスクール」と位置付けています。彼は物事を理路整然と考えるタイプで、嵐においては5人の個性をうまく引き出す“言葉”を紡いでいる人だと思います。彼はキャスターもやっているし、性格的にも真実というものに対して几帳面な人らしいです。きちんと物事を考え、きちんと伝えるという意識が強いので、逆に言えばそのように物事を差配することもできます。いわば、言葉を使って5人の個性の秩序を作り出す基底になっている人ではないかと。例えばMCをするときに、他のメンバーのことも考えながら話を回していけるのが、彼の特徴かと思います。

――相葉くんについては、櫻井くんと同じように「語る人」と位置付けながらも、話す内容は対照的だと指摘しています。

関:相葉くんは、櫻井くんとは違って予測不可能な語りが特徴です。それは精神分析学のカウンセリングにも似ていて、カウンセラーからすると患者の言葉は予測できないものなんですね。しかしながら、そこには人間の心の豊かさもあります。だから相葉くんを「精神分析のディスクール」と位置付けました。その場に新しいものが必要なときは、知識の積み重ねとは異なるアプローチが大切で、相葉くんの言葉にはそれがあります。それによって皆が新しいことに気付きます。知識の積み重ねとクリエイティブなものは両方必要で、その言説の両翼を担っているのが、櫻井くんと相葉くんというイメージですね。

――では、松本くんと二宮くんはどういう役割でしょう。

関:櫻井くんと相葉くんが「語る人」であるのに対し、松本くんと二宮くんは「演技」に重きをおいた役割を担っています。まず松本くんは「主のディスクール」と位置付けました。松本くんは5人の中では一番カリスマ性を持っていて、主役的な立ち位置がしっくりくる人です。『VS嵐』などでは、メンバーが最後に松本くんに意見を聞くシーンがよく見られますが、これは彼が最終的な決定権を持っている「主」であることの現れでしょう。また、ドラマなどでも主役がよく似合うタイプで、逆にいうと、申し訳ないですが目立ちすぎて主役以外はあまりできないのではないかとも思います。一方、二宮くんはそれとは対照的で、あらゆる役柄を演じわけることができるタイプ。周りを活かすタイプとでも言いましょうか。たとえばドラマ『Stand Up!!』では、二宮くんが主役でしたが、その際もヤマピーや小栗旬さんといった他の役者を引き立てていました。精神分析学では、ヒステリーという病は「無意識の演技」であるとされています。演技には「観る者に演技と悟られず、また、意識的に演じてもいけない」という教訓がありますが、あらゆる役柄に馴染む彼の演技は、そんな「無意識の演技」に通じるものがあるのではないでしょうか。そこで彼のことは「ヒステリーのディスクール」と位置付けました。ヒステリーというとネガティブなイメージがありますが、その病は社会的に抑圧されていた女性や子どもの欲求不満が引き起こすものであるということが後に知られ、女性の地位の向上やさまざまな解放運動にも繋がりました。つまり、世の中のバランスを取ることにも繋がったということです。そういった意味でも、全体のバランスを取るのに秀でた二宮くんの役割と通じるものがあるかと思います。

――4人が相互に作用しあって嵐の関係性が成り立っていると。 リーダーの大野くんはどうでしょう。

関:大野くんは「資本のディスクール」で、4人にとって「+α」の存在にあたります。パッとみた感じは「4つのディスクール」が表現全般を担っていて、大野くんの役割は不明瞭に思えます。しかしながら、彼がリーダーであることはメンバーみんなが知っている。4人が相互作用している後ろで、大野くんが見ているという構図がわかりやすいでしょうか。実際に彼は、デビュー当時から他のメンバーより年上で、独特のポジションを担ってきました。歌やダンスのスキルが非常に高いだけではなく、芸術的な才覚も持ち合わせているにも関わらず、なぜかグループの中で突出して目立つわけではない。普通、それだけの能力があれば、その威光を使ってメンバーをコントロールするのが通常のやり方ですが、大野くんはあえてそれをしません。決して能力を誇示することなく、しかしその存在感でメンバーを統率するというか。こういうと語弊があるかもしれませんが、精神分析学でフロイトが言うところの「不気味なもの」に相当するポジションで、ミステリアスな魅力を放っています。実際、彼はドラマでも普通の存在ではない役柄が多いです。『死神くん』などはハマり役で、彼は死神として生きている人の背後にいて、その人生の終焉を見ている。この「いないように思えて、実はすべてを統率している」というのが、大野くんのリーダーとしてのあり方なんだと思います。

――なるほど。いったいなぜ我々は彼らの関係性に惹かれるのでしょうね?

関:テレビで彼らが会話しているのを聞くと、私たちの日常的な会話の延長線のように感じます。「芸能人が我々と違う特殊な世界の会話をしている」と感じることもテレビの魅力ではありますが、嵐の5人の会話は、我々が友達と普通に会話しているのとあまり変わりません。しかしその中で、メンバーがお互いの個性をよくわかっていて「ここで相葉くんに振ってみよう」という感じで話がどんどん進んでいきます。5人のディスクールがうまく作用しあっているんですね。そこに、我々はある種の理想の人間関係を見るのではないでしょうか。今の世の中は、友達や同僚など、身近で日常的な人間関係がうまく形成できないところがあるように思います。だからこそ、自分たちと同じレベルでありながら、たがいにリスペクトしつつ言いたいことが言える彼らの関係に、好感を抱いてしまうのだと思います。
後編につづく

(取材・文=松田広宣)

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