西寺郷太『TEMPLE ST.』全曲解説インタビュー(後編)

「ダフト・パンクの新譜が出て、僕の人生がまた明るくなった」西寺郷太が語る“生の音楽”の魅力

06. BLUEBERRY BAG

Prince/Alphabet St.(1988)
Blur/Girls & Boys(1994)
Outkast/Hey Ya!(2003)
The Rolling Stones/Under Cover Of The Night(1983)
Franz Ferdinand/Evil Eye(2013)

Blur - Girls And Boys

西寺:「TEMPLE ST.」の「ST.」はプリンスの「Alphabet St.」から取ったんですけど、あの表記をずっとかわいいなって思っていて。あと、曲中に中国の女の子が出てくるんですが、彼女には「Alphabet St.」の歌詞の世界を歌ってもらっています。

 ブラーは90年代でいちばん好きだったロック・バンドで、NONAが“下北沢ギター・ポップ出身”なんてふうに括られていたこともあって。「Girls & Boys」のわちゃわちゃした楽しい要素は「BLUEBERRY BAG」にも入ってると思います。ローリング・ストーンズを観た後だとあのブラーですらコンパクトな気もしてしまいつつ(笑)……まあもちろんそこが魅力なんですけど、あくまでも自分の世代感のなかでリアルタイムなロックってことではブラーは最後のバンドでしたね。

――前に言ってましたよね、「レディオヘッドの『OK Computer』が出たあたりから僕の人生暗かったんですよ」って。

西寺:でも、ダフト・パンクの『Random Access Memories』が出て僕の人生がまた明るくなったと思います(笑)。だって、僕がいままでやってきたことにダフト・パンクのほうから寄ってきたように僕には思えますから。彼らはいままではコンピュータ音楽だったのに、生の音楽に振りきってきたわけですからね。

 アウトキャストの「Hey Ya!」はラップを入れるときに参考にした曲です。弟がやってるバーの常連客でハワイ出身のアンソニー・ヘンダーソンってラッパーにお願いしたんですけど、Q・ティップ(ア・トライブ・コールド・クエスト)みたいな声の男で。最初は「SCHOOL GIRL」にラップを入れようと思ったんですけど、ロック・テイストの曲でラップしたほうが面白いんじゃないかって考えたときに「Hey Ya!」が思い浮かんで。ジャック・ジョンソンみたいなハワイ感のある曲で、あえてセカセカやってもらう速いラップも面白いかな、って。そうしたらアンソニーがすごくいい歌詞を書いてきてくれたんですよね。これも運やタイミングを重視して良い結果に結びついた例ですね。

 フランツ・フェルディナンドの「Evil Eye」は、めっちゃ長いリミックスがあったりして、やっぱり僕が好きなロックっていうのはストーンズの「Undercover Of The Night」みたいなリミックスっぽいロックなんです。あとはイエスの『Owner Of A Lonely Heart』(1983年)や、ダイアー・ストレイツの『Money For Nothing』(1985年)とか、ロックとダンスがロック寄りで混じったみたいなものは結構好きでした。

 ちなみにこの曲のストリングスは東京芸大を首席で卒業した真鍋裕くんというバイオリニストに弾いてもらってるんですけど、彼がまたものすごくうまい。ギターやベースはめちゃくちゃシンプルな演奏をしてるのに、ストリングスは日本でいちばんになったバイオリニストが弾いてくれてるっていう(笑)。そのギャップもまたいいかなって思ってます。

07. SILK ROAD WOMAN

Sade/Sweetest Taboo(1985)
TOTO/Africa(1982)
細野晴臣/ハリケーン・ドロシー(1975)
高中正義/Smoother(1987)
Michael Jackson/Liberian Girl(1987)

Sade - The Sweetest Taboo

――先述した『MUSIC 24/7』の交通情報のBGMとして使われていた曲ですが……これ、初めて聴いたときに「あれこれなんだっけ?」って思ったんですけど、でも実はなんでもないんですよね。あまりに良いメロディすぎて既聴感があるっていう。

西寺:それは最高の褒め言葉です。これは天地神明に誓って言いますけど(笑)、なんのパクリでもないですからね。「SILK ROAD WOMAN」については……僕もなんのこっちゃわからないんです。「ヘンな歌ができたな」って思っていて、いったいどうしようかと思っていたんですけど、ちょうどそのとき『MUSIC 24/7』のプロデューサーから番組中の交通情報で使えるような音楽をつくってほしいって言われたんです。それで打ってつけのがあるってことで渡したのがこの曲なんですよ。で、ここまできたらせっかくだから曲にしようってことになって、ティトと一緒に歌詞を書いたんです。無国籍な感じというか、なんか不思議な良さがあるんですよね。

――正直言って、メロディの名曲感や普遍性みたいなところではリストに挙がっているどの曲よりも勝ってますよ(笑)。

西寺:ありがとうございます(笑)。シャーデーっぽいオリエンタリズムというか、シャーデー・アデュが砂漠でラクダに乗ってるみたいな世界観ですよね。TOTOの『Africa』や細野さんの『ハリケーン・ドロシー』も異国情緒を感じさせる曲ということで選んでみました。

 高中正義さんの「Smoother」は昔に『ニュースシャトル』(87年10月から89年9月までテレビ朝日で放映された報道番組)のエンディング・テーマとして使われていた曲で、これは別にエキゾチックなムードがあるということではないんですけど、ニュースのエンディング感とか交通情報のBGMでかかりそうな感じが「SILK ROAD WOMAN」には異様にあるよなってことで(笑)。

 マイケル・ジャクソンの「Liberian Girl」は言葉の通じない女の子とのロマンスということで選んだのもありますけど、ついにジャクソン・ファミリーと歌詞を共作した曲ということも踏まえての選曲です。ティトとの会話は言葉は通じるけど細かいニュアンスは伝えられなかったりするので、歌詞はおのずとストレートな表現になるんですよね。入り組んだ表現ができないぶん大事なものが伝わるというか。この曲はいずれ誰かにカヴァーしてほしいですね。

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