峯田和伸(銀杏BOYZ)×豊田道倫 特別対談(前編)
峯田和伸と豊田道倫が語る、音楽の生まれる場所「街は静かだけど、心のノイズは増えている」
峯田「街からノイズは減っているのに、テレビとかネットでは増えている」
豊田:銀杏BOYZのレコードを聴いたときのノイズ感、カオス感。あれ多分、メンバーがそのときに聴いたサウンドというか、心のサウンドなのかと思った。下北とか渋谷を歩くと、僕はもう全然、そういうカオス感とか感じないんですよ。でも、みんなの中にはああいうノイズとか、カオス感があったなーって。僕の場合は今回の作品を作るときに、最初は爆音で作るってみんな思ってたんだけど、あんまりそういう感じはなかったんだよね。ノイズ好きだけど、街の中でそんなにノイズを聴いていないからかな。
峯田:街だったり、まぁ世界でもいいんですけど、ノイズは減っていると思います。でもテレビとか、メディア、ネットでは増えている。俺が東京来た時はもっといかがわしかったけど、歌舞伎町も浄化されていて、一見すごく静かで。でも俺、たまにパチンコ屋に行くんですよ。阿佐ヶ谷のパチンコ屋がすっごいうるさくて。ほんとシューゲイズみたいなすっごいノイズで。あれが味わいたくてたまに行くんですよ。行くところに行くとうるさいぐらいで、あとはみんな静か。でも、テレビでバラエティ観ていても、前だったらそんな演者がしゃべってるのに合わせて、テロップとか出てませんでしたよね。そういうテロップとか右上とか左上にも、いろんな情報とかノイズっていうのがものすごくて。街から減っているのに、テレビとかネットとかではノイズは増してて、うざったらしい。なんでこんなに画面がうるさいのか。それが気持ち悪いんですよね、自分にとって。街はもっとうるさくていいから、娯楽とかそういうのはもっとひっそり観たい。街がうるさくて、嫌だからテレビ観てるとか。今は逆行していて、街が静かだからテレビがうるさくて、落ち着ける場所がなくなっている気がするんですよ。それをなんか払拭したくって、(新しいアルバムで)ノイズが増えていったのかなって、今になって思うんですよね。もう、うるさい曲は、曲の輪郭わからないくらい抽象的なノイズというか。抽象的になるためのノイズで、それはメルツバウとか、そういうノイズアーティストのアイテムとしてのノイズではなくて、なんかもっと骨組みを抽象的にする役割としてのノイズというか“ノイジーな気分”だったんでしょうね。僕以外の三人もそうだったんだと思います。これ、こうしちゃうとベースライン聴こえない、いやでもそうしたほうが気分的にはいいかなってなったんでしょうね。
豊田:こないだ二日間、大阪の実家に帰ったんだけど、めちゃくちゃ街がうるさい。東京に帰ると静かでいいなぁって思って。どっちがいいのかわからないけど。さっきも言ってたように、人間の心の暗部とかは、どんどんノイズ感が増えているんだけど、街として聴こえてくる音は、前よりもきれいになったというか、あんまり大きな音じゃない。で、今の若い子たちの音楽も割とそんな感じなんですよ。割とプラスティックな感じ。ちゃんとプラモデルを作っているのが多い。そういうところに突然、峯田くんがああいうレコード出したのは、90年代っぽい、グランジとかジャンクとかいう雰囲気で1回ぶっ潰すような感覚はあったかもしれない。(後編【“答え”よりも“謎”のある作品をーー銀杏BOYZ峯田と豊田道倫が見据える「2040年の音楽」】に続く)
(取材=神谷弘一/構成=松田広宣/写真=金子山)