EXILEのATSUSHIが見せたR&Bシンガーとしての実力 新アルバム『Music』レビュー
EXILEのATSUSHIが前作『Solo』からおよそ2年3ヶ月ぶりとなるオリジナル・アルバム『Music』を3月12日にリリースした。初回生産限定豪華盤に旧友の清木場俊介とのコラボ楽曲「fallin'」「The Impossible is Real ~My Lucky Star~」を収録していることでも話題の本作は、集計初日である2014年3月11日付のオリコンアルバムデイリーランキングで約8.7万枚を売り上げ初登場1位を記録。早くも在庫切れとなるレコード店が続出するなど順調な駆け出しをみせている。
アルバム「Music」はブラスとエレクトロの醸し出すゴージャスなサウンドが印象的な新曲「MAKE A MIRACLE」で幕を開け、リズミカルなダンスミュージック「Colorful Love」へと続く。そこから一転「MELROSE 〜愛さない約束〜」「Real Valentine」という王道R&Bバラードでソウルフルな歌声を聴かせると、「道しるべ」「それでも、生きてゆく」「懺悔」とシンプルなピアノの伴奏をフィーチャーした曲が続いていく(「それでも、生きてゆく」は辻井伸行、「懺悔」は久石譲とのコラボレーション曲)。都会的なサウンドの「LA LA 〜孤独な夜に〜」で再びギアを上げると、その勢いはエキゾチックなメロディラインが特徴の5thシングル「青い龍」へと受け継がれる。田舎の原風景を彷彿させるSE曲「Interlude」を挟んで「ふるさと」「赤とんぼ」と童謡を歌い上げた後は、美空ひばりの名曲「愛燦燦」を武部聡志アレンジで熱唱。アルバムの最後はm-floとコラボレーションした「ALIVE」の近未来的な世界観で幕を閉じる。
全体を通して聴くと、およそ既発のシングルとカップリング曲中心とは思えない、ひとつの壮大な物語の世界にいるようなコンセプチャルな仕上がりとなっているのが印象的であった。また伝説のバンド「クラッキン」の元メンバーで数々の名立たる世界的アーティストと共演してきたArno Lucasやノルウェイの作曲家MATSLIE SKARE、ジャニーズの楽曲も多数手がけるMagnus Funemyrなど錚々たる顔ぶれのクリエイターを起用しているにも関わらず、アルバム全体を通して楽曲のアレンジが主張しすぎない、ATSUSHIの歌声のもつ魅力を引き出すのに徹しているのも印象に残った。そんなアレンジに支えられたATSUSHIのボーカルはダンサンブルな曲からスローテンポのバラード曲、はたまた童謡や歌謡曲まで変幻自在に姿を変える(童謡をカバーした経緯について、ATSUSHIは震災の影響などもあり今回は「日本の心」を歌いたかったとインタビューで述べている)。EXILEでの印象が強い分、ここまで本格派のR&Bシンガーだったということに正直驚かされた。特に随所で用いられるファルセットの力強さは国内随一と言っても過言ではないのではないだろうか。
普段見せるダンスグループとしてのEXILEをイメージして本作を聴くと肩透かしをくらうかもしれない。もちろんそのような曲も収録されているが、どちらかというと本作は平井堅やCHEMISTRYのようなソウルフルなシンガーと並べて語られるような、本格派のR&Bミュージックが収録されたアルバムに仕上がっている。普段はEXILEのようなダンスミュージックを聴かない方も、いや、そういう人にこそ「Music」は手にとってもらいたい。きっとATSUSHIという実力派シンガーの底知れなさに驚かされるだろう。
(文=北濱信哉)