円堂都司昭がBABYMETAL武道館公演を考察
キャンディーズからBABYMETALまで 「アイドルとロック/メタル」の40年史を読み解く
BABYMETALの場合、アイドルの多面性における一要素としてメタルを導入するのではなく、ヴィジュアル、ステージ演出、サウンドの全面でメタル的なものを展開している。『BABYMETAL』には、X JAPAN的なツイン・リード・ギターの様式美、ラップ・メタル、デス・ヴォイス、派手なシンセを使ったピコリーモなどメタルの様々なヴァリエーションが並ぶなかに、「ド・キ・ド・キ☆モーニング」など、いかにもなアイドル・ポップスと合体したメタルが混じっている。
また、彼女たちのライヴでは定番であるスクリーンでの紙芝居では、「メタルは正義、そしてカワイイも正義」の名文句もあった。可愛さの代わりにメタルで強さや笑いの一面を見せるというのではなく、可愛いままメタルなのがBABYMETALなのだ。彼女たちは、悪夢、十字架、破滅、死、暗黒などおどろおどろしい要素でできたメタルのイメージを背負いながら、可愛いうえに前向きというアイドルらしさと両立させている。
SU-METALはアイドルとしては優れた歌唱力を持っているが、それだけでは
BABYMETALは成立しない。アイドルとメタルの融合が可能になったポイントは、主にダンスやラップを担当するYUIMETALとMOAMETALの存在だろう。BABYMETALでは、神や悪魔など洋風のゴスの雰囲気を和風に置きかえた部分がある。キツネ様がいる設定をはじめとする民話的、昔話的な雰囲気、「メギツネ」などにみられるYOSAKOI的な曲調や祭りのかけ声のような合いの手。そうしたなかで凛とした声で熱唱するSU-METALが少女であるのに対し、中学生だが子どもっぽい声を発するYUIMETALとMOAMETALは、役回りとしては幼女だ。
鬼ごっこを歌った「Catch me if you can」の「まあだだよ!」という子どもっぽい声を聴いていると、座敷童子のような童子神、子どもの精霊が連想される。この幼女性が、和風のゴスムードを高めている。
そして、「イジメ、ダメ、ゼッタイ」に代表される通り、BABYMETALはネガティヴで暗いモチーフを扱いながらも、それをポジティヴで明るい方向へひっくり返す。インタヴュー記事ではデス・メタルにひっかけて「です。」を「DEATH!」に置きかえるBABYMETALだから、YUIMETALとMOAMETALが歌う「4の歌」には、死の歌という含みもある。だが、同曲では「失敗の4」であると同時に「死ぬじゃない4」、「喜びの4」と歌われる。メタルらしく黒い衣裳を着ていても、アイドルらしく前向きなのだ。それが、彼女たちに悪魔的なものではなく、善き童子神を思い浮かべる理由でもある。
強くあろうとする少女といたずらな童子神たちというBABYMETAL3人の今の構図は、年齢のこともあるし、長期のものではありえない。そのことは、彼女たちの側もファンも予感しているはず。だからこそ、限りあるであろう時間を精一杯駆け抜けてほしい。まずは、ヨーロッパでの活動に期待したい。
■円堂都司昭
文芸・音楽評論家。著書に『エンタメ小説進化論』(講談社)、『ディズニーの隣の風景』(原書房)、『ソーシャル化する音楽』(青土社)など。