大物公演続く「洋楽」来日事情 若手~中堅公演の実現には課題も
上記の事実を踏まえると、ベテランミュージシャンの来日が続く一方で、世界的にはセールスのある若手~中堅ミュージシャンの日本公演がなかなか行われないことにも合点がいく。日本で行われる洋楽ミュージシャンのライブは主に中高年が観に行くものであり、彼らが好んで耳にするのは若いころに青春を捧げたミュージシャン。結果、レディー・ガガやジャスティン・ビーバーなど一部の例外を除いて、日本で行われる来日公演の大半がベテランミュージシャンのものになるのである。音楽ライターの柴那典氏は「洋楽ロック雑誌のカルチャーにおいては90年代で時計の針が止まってしまった。10代~20代の音楽ファン、特にロックファンがリアルタイムの洋楽を聴かなくなっている」(DrillSpin columnより引用)と指摘しているが、発言の通り「リアルタイムの洋楽」を支えるリスナーが日本では少なくなっているのだ。
またライブを取り巻く環境が2000年を前後に大きく変化したことも要因に挙げられる。東洋経済オンラインの取材にコンサートプロモーターズ協会の今泉裕人事務局長は次のようなコメントをしている。いわく「90年代まではCDさえ売れれば採算度外視で赤字でも問題なかった。企業からの協賛金も潤沢に出ていた。しかしCDが売れなくなりミュージシャンはライブで収益化を図るようになっている。そこではどれだけ集客できるか、グッズ等で売上を稼げるかが重要になった」(東洋経済オンラインより引用)という。このような点からも来日公演を行うことはミュージシャンにとってコストパフォーマンスの悪いことなのである。
環境としては決して恵まれたものではない現在の日本の音楽市場。しかしその中でも存在感をみせるミュージシャンが出てきているのは一筋の光明といえるかもしれない。昨年に来日ツアーを行ったジェイムス・ブレイクは東名阪の3か所でいずれもチケットが争奪戦になった。またホステス・エンタテインメントが定期的に開催している『Hostess Club Weekender』は回を重ねるに連れて集客を伸ばし、先日は新木場STUDIO COASTで二日間の公演を成功させた。少しずつではあるが、洋楽を聴く新しい世代が育ってきているのは心強いことだ。また近々にも聴き放題ストリーミングサービスSpotifyが上陸するという噂もある。このようなサービスがかつてのFMラジオのように若いリスナーと洋楽の「出会い」のきっかけをつくり、再び洋楽シーンが盛り上がりを見せるようになる。ベテラン以外のミュージシャンも来日するようになる。そんな日がやってくることをイチ音楽ファンとして願ってやまない。