宇野維正が「あなたの100の嫌いなところ」をレビュー

もしかして、名曲? 剛力彩芽のセカンドシングルを音楽的に徹底解説

 剛力彩芽のセカンドシングル「あなたの100の嫌いなところ」。デビュー曲から、たっぷり半年以上のインターバル。路線変更や仕切り直しをするには十分な時間だ。にもかかわらず、先行して公開されたビジュアルは相変わらず斜め上の野暮ったさで、曲のタイトルもなんだか挑発的。作家陣やミュージックビデオの方向性も前作を踏襲するという確信犯ぶりで、いささかウンザリしながら、どこからディスってやろうかと思いを巡らせていた……曲をフルで聴くまでは。

 そう、今回の新曲、曲単体に関して言えば、全然悪くない。というか、むしろ相当いいのだ。というわけで、ここではゴリ推しだの炎上商法だのといったことは隅に置いておいて、それとミュージックビデオに出てくるなんだかイラつくアニメのキャラも見なかったふりをして、「あなたの100の嫌いなところ」の楽曲としての魅力について解説していきたい。

剛力彩芽「あなたの100の嫌いなところ」

 まず、この曲において圧倒的な存在感を誇っているのは、全編にわたって鳴り響いているぶっといベースライン。ぶっといベースといえば、今の流行り的につい手を出してしまいがちなのが、最近だと中田ヤスタカなどが非常に洗練された手法で導入しているダブステップ的な、あのちょっとつんのめった変拍子のリズム。しかし、この曲で用いられているのは、あくまでも平面的で無闇やたらにぶっといだけの、ニュージャックスウィング(テディ・ライリーが生み出したバウンシーなベース)以前、ハウスミュージック(ローランドTB-303由来の無機質なベース)以前の、80年代MTV的シンセベースのサウンドだ。

Nu Shooz 「I Can’t Wait」

 80年代MTV的シンセベースを最も印象づけた曲として、音楽ファンならまず思い浮かべるのは、Nu Shoozのヒット曲「I Can’t Wait」だろう。前作「友達よりも大事な人」の時は、「デビー・ギブソンやティファニーを思い出させるような野暮ったい80年代ガールズポップ」風アレンジをどうしてわざわざ採用したのかについて疑問を投げかけたが、同じ80年代でも、今やすっかりダンスクラシックにもなったこのNu Shoozのような「シンセベースが曲の骨格にして、そのすべて」という手法に目を付けた今作の編曲は、なかなか気が利いている。

関連記事