銀杏BOYZ『光のなかに立っていてね』『BEACH』を語り尽くす

「銀杏BOYZの新作は100万枚売れるべき!」ダイノジ大谷と宇野維正が緊急対談

宇野:峯田君は以前、頻繁に更新していたブログの最後に必ず「おやすみBGM」っていう、その日彼が聴いている音楽を紹介していて。そこで彼が名前を挙げている音楽は、青春パンクとかとはまったく無縁の音楽ばかりでした。あと、ライブの始まる前のSEとかでかかる音楽でも、ストーン・ローゼスだったり、プリファブ・スプラウトだったり、非常に純粋な音楽ファンの一面を覗かせていたんですね。なぜ彼がそれでもパンクをやっていたかというと、今作のインタビューでも言ってたけど、単純に音楽的な技量がたりなくて「出来なかったから」だったんですよね。だから、彼は売れるために青春パンクをやったわけではなくて、とにかく表現の欲求があって、その時に自分たちができることをやっていた結果が当時の音楽だった。で、その現実と理想にはずっとギャップがあったんだけど、それを9年間かけて一気に埋めたのが今回の2枚のアルバムと言っていいかもしれない。

大谷:本人になぜ、一気にサウンドが進化したかを訊いたんです。そしたら「パソコンがデカかった」っていうんですよね。生感とかライブとかに重きを置いているけど、やっぱりサウンド作るときはパソコンで。メンバー同士でメールで1通1通やり取りしている中で、「昔は出来なかったけど、パソコン使えば出来るんじゃねーの?」ってなっていって、どんどん幅が広がったって言ってました。今はノイズ、インダストリアルをかなり聴いているみたいで、特にナイン・インチ・ネイルズを聴いているとか。彼が言うには、ノイズって日常なんだそう。彼はむしゃくしゃするとパチンコに行くらしいんだけど、パチンコ屋の音が気になるんだって。あと、チープな音が欲しい時は、ゲーセンの音が気になるとか。『光のなかに立っていてね』の最後にある「僕たちは世界を変える事ができない」のイントロが、スーパーで流れている音楽に聴こえたんですが、あれも日常の一部という。それで音楽的な純度が下がってるかと言ったらそういうわけではなく、むしろそこに彼独特の知性を感じる。このアルバムで鳴っているノイズは、日本で暮らす僕らの日常にあるノイズと、完全に地続きなんですよ。

宇野:ある日本の音楽関係者が、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインのケヴィン・シールズに日本のロックバンドのCD をごそっと送って、対バンしたいバンドがいるかどうか尋ねたんだって。結果、ケヴィンが一つだけ気に入ったバンドがあって、それがなんと銀杏BOYZだったという興味深い話があって。今回のアルバムを聴いてそう思ったのならまだわかるけど、もっと前のタイミングだから、ケヴィンが聴いたのは『君と僕の第三次世界大戦的恋愛革命』か『DOOR』ということになる。マイブラって、今ではちょっと神格化されちゃって、音楽的に高尚なバンドっていうイメージがあるけど、初期の「シガレット・イン・ユア・ベッド」っていう曲は、恋人とセックスして射精した後にベッドで吸う煙草の歌だし、彼らにとって最大のヒットとなった『グライダーEP』のジャケットは、そのまんま「べろちゅー」だし。男女の掛け合いボーカルもそうだけど、実はマイブラの音楽の本質はギターノイズ神様とかではなくて、ギターで表現されたセックスのエクスタシーなんですよね。昔は演奏もメチャクチャ下手だったし。きっとケヴィンは、銀杏BOYZに昔の自分たちとちょっと同じ匂いを感じたんだろうなって思います。

大谷:いい話ですね!

宇野:銀杏BOYZの今回の2枚を聴いて思うのは、どうしたってこぼれてくる色気、セクシーさ。これはやっぱり今のロックが決定的に失っているものだし、それが峯田がロックスターである理由なんじゃないかと。

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