「10年ぶりにエレキが弾きたくなった」織田哲郎が最新作『W FACE』に求めた“衝動”とは?
ロックから離れていたから、衝動が溜まっていた
――特に『DISC-RED』はギターサウンドを全面に出した、かなりロックで荒々しさを含んだ仕上がりですね。
織田:大人になってまた声変わりしちゃって、音域が非常に狭くなってしまいました(注:織田氏は2000年、スペイン・マドリッドで強盗に首を絞められ、声帯が変形してしまった)。当時は相川七瀬のプロデュースをずっとやって少々疲れたこともあり、ロックからは本当に遠ざかっていたんですよ。レコーディングするのにもライブをやるにも、アコースティックなものばかりで、「ドラムはうるさいからいらない」という感じだった。実際、音楽の本質的な部分において、エレクトリックなものより、生楽器のほうがいい音がするんですよ。というのも、生楽器というのは人間にとっての気持よさを追求した結果、何百年もの歴史を生き残ってきた。いい楽器をちゃんとしたプレイヤーが鳴らせば、やっぱり心地いい。だから、前回のアルバムではそういう音ばかり集めたんです。
でも、一方では「俺はエレキギターを弾いているのが好きなんだ」という思いがある(笑)。楽しいから、やっぱりエレキが弾きたかったんですよ。結果的に10年くらいロックから離れていたものだから、衝動が溜まっていた部分もあったんでしょうね。それが今回のアルバムで、いい形で噴き出したんじゃないかな。
――織田さんの音楽的ルーツの一つである70年代のハードロックは、今でもやはり大きなものとして残っているのでしょうか。
織田:アマチュアバンド時代は確かにハードロックをやっていましたね。ただ、いろいろな音楽が好きで、いわゆるアメリカのフォーク、ニール・ヤングや、ちょっと世代をさかのぼったところでボブ・ディランなども聴いていました。そういう、弾き語りを無骨にやるような人が好きだったんですよ。無骨じゃない系ではサイモン&ガーファンクルも好きで、ロックはT-Rexが一番好きだった。ロックをやるなら、本当はメイクをしてないと嫌だって思ってましたね(笑)。さらに、モータウンやフィラデルフィアのように踊るための音楽で、きちんとアッパーになるアレンジがされている音楽もすごく好きだった。こんな風に、リスナーとしていろんな音楽を好きになり、聴いてきたことが、いまの作り手としての自分にすべて跳ね返って、活きていると思います。
――おっしゃるように、今作の2枚もアコースティックとロックの両面を持っています。このふたつは、これまでの織田さんの音楽の中に、ずっと軸としてあったのでしょうか?
織田:一番太い軸は、そのふたつでしょうね。ただ、ほかにもいろいろな柱が立っています。ひとつには、子どものころから映画音楽が好きだったから、今回のアルバムでも弦アレンジが気に入っていて。これは、モータウンやフィラデルフィアのアレンジから受けた影響もあるでしょうね。それまでの白人音楽のアレンジにはない、粋な方向性が好きだったから。