中森明夫が『あまちゃん』と能年玲奈を語る(第3回)

「『あまちゃん』的な価値観が次の時代を作る」中森明夫が示す、能年玲奈と日本の未来

 中森明夫氏がNHK連続テレビ小説『あまちゃん』と、ヒロイン天野アキを演じた能年玲奈について語り尽くす集中連載第3回。最終回となる今回は、アイドル批評家の社会的な役割から、能年玲奈の天才性、そして中森氏が『あまちゃん』劇中で心を動かされたシーンまで、深く語った。インタビュアーはアイドル専門ライターの岡島紳士氏。

第1回:「中森明夫が『あまちゃん』を徹底解説 NHK朝ドラ初のアイドルドラマはなぜ大成功したのか?」
第2回:「国民作家の地位は、宮崎駿から宮藤官九郎へ」中森明夫が論じる『あまちゃん』の震災描写

批評家の仕事は、アイドルファンに語るのではなく、社会に語ること

中森:いずれにしても、『あまちゃん』は現実と深くシンクロし、また現実に影響している。僕のツイートにリプしてくれる方々の誘いで「あまちゃんオフ会」を2件ハシゴしました。ひとつは道玄坂にあるクラブで「自分が行っても大丈夫かな?」と思ったのですが、二重扉を開けたら、お座敷列車みたいに若い連中が床に車座になってウダウダやっていた(笑)。もうひとつは六本木の豚しゃぶ屋でしたが、こちらではフェイスブックでつながった40代くらいの人が中心。親子連れで来ている人もいて、みんなで「潮騒のメモリー」を大合唱でした。見知らぬ人々がすでにドラマで仲よくつながっていた。『あまちゃん』ってスゴいな、とあらためて思いましたね。

――当の宮藤官九郎さんは、そのあたりをどう考えているんでしょうね。

中森:宮藤さんがえらいのは、答えを言わないこと。劇中で、アキのミサンガが一本切れずに残った意味も説明していません。少なくとも、「アイドルの力で地域が盛り上がって万々歳」という話ではなかった。もちろん、「現実にもアマノミクスで復興して万々歳」なんてわけはないでしょう。

 たとえば、「アイドル評論なんて意味がない」とよく言われます。今はネットがあるから情報量では僕らなんか全然かなわないほど詳しい人がいる。現場に通っている人のつぶやきをすべてチェックすることもできません。しかし、それはブロガーやウォッチャーであっても批評家ではない。批評家の仕事は、アイドルファンに語るのではなく、社会に語ること。国はクールジャパンだなんだとサブカルチャーをこれだけ持ち上げておいて、一方でやっているのは、非実在青少年マンガ規制のようなナンセンスな話。これは、マンガ業界が持っている社会に対する抵抗の力が弱いためです。映画界は斜陽ではあるものの、批評家がたくさんいるし、賞もたくさんある。歴史や権威に支えられているからなかなか潰されない。アイドル文化を支える抵抗力として、批評家が役に立つときが絶対にあるはず。それが僕の仕事だと思っています。

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