「ポップの本質は一発芸だ」J-POPを創った男=織田哲郎が明かす“ヒットの秘密”

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プライベートスタジオにて。最近あまり使ってないけど…と笑いながらポーズを取ってくれた

人がポップだと感じるメロディは、60~70年代からそれほど変わっていない

――「いい」と思える音楽の基準は、作り方や状況が変わっても変わらないものですか。それとも、ハードウェアや状況に規定される部分もあるのでしょうか。

織田:それはあります。例えば、いまの僕は“デジタル万歳”。なぜかと言えば、音楽制作ソフト「Pro Tools」が96kHz(録音サンプリングレート。一般的なCDは44kHz)に対応したから。打ち込みをやっていて、サンプル音源のクオリティがかなり上がっているので、これは楽曲の制作に大きく影響します。

――先ほど伺った良質なポップスに対する判断基準は、制作環境の変化の影響を受けますか。

織田:それはまったく変わりません。電気的な後処理で曲がカッコよくなることも認めるし、「ハードの変化でこういうことができるようになった」というポップさもアリです。でも、だいたいにおいて人がポップだと感じるメロディの要素というのは、実は60~70年代とそれほど変わっていない。50年代の音楽はいま聴くと古くさく感じますが、ビートルズの後期のメロディは、まったく古くなっていません。60年代はまだ古いものと新しいものが共存していたけれど、70年代には古いものが淘汰されて、新しいメロディの気持よさの価値観ができあがったんです。そして、現在に至るまでその価値観は大きくは変わっていない。当然、細かい変化はありますけど、それ以前の激変に比べると比率としては小さいものです。細かい話は理屈っぽくてつまらなくなるから、今回は割愛しますが(笑)。

――60~70年代に起きたような変化は、当分は起きないと。

織田: そうですね。例えば、服や車の形だって、結局は70年代くらいまでのものをマイナーチェンジしているわけでしょう? 音楽にかぎらず、いろんなものが大きく変化しない安定期に入っているのかもしれないですね。ここまでは「より便利に、快適に」という人間の欲求が文明を進化させてきたけれど――『マトリックス』という映画でも描かれているように、ここから先は、便利さの追求が必ずしも社会を発展させることにつながらないと思う。

 例えば、恋愛の魅力を考えてみるとどうか。これまでになかった刺激的なできごとがあれば楽しいし、一方で心地よく、落ち着ける関係も魅力的ですよね。これを両立するのが、ものすごく幸せな恋愛だということになる。そして、音楽において刺激的なことが心地よさと両立していた幸せな時代が、60~70年代だったということです。それを過ぎたら、より刺激的なことは、体に悪いことでしかなくなっていく。いまはどんなジャンルでも、前衛的なものは普通の人にとって気持ちよくないものになっている。その点、60~70年代はアンディ・ウォーホールやビートルズが最先端で、しかも心地のいいものだった。こんなにハッピーな時代はない。その点、いまのポップ・ミュージックには、前衛的に見えたとしても、予定調和で先が見えているものしかない。文化として停滞せざるを得ない時期なんだと思います。

――織田さんの中に、「予定調和を超える前衛を見てみたい」という思いはありますか?

織田:それはありますよ。例えば、発表しない音楽を作るなかで、既存の理論を壊した音階やリズムを試したりもしています。そういう作業は、作り手としては面白い。でも、それをリスナーとして聴いてみると、面白くも心地よくもないものだったりするわけで。だから発表していないんですけどね(笑)。

 それでも、細かいところでは「まだ同じことやっているよ、俺……」という意識で曲を作るのは耐えられないので、ポップスというフィールドのなかで、いろんなことを試しています。言ってみれば芸術家というより職人で、人から見たら同じ皿でも、自分にとって進歩があれば幸せだし、つまらなく思えば割ったりもする。大それた前衛じゃなくても、細かいところで「俺は新しいことをした!」と思えればいいと考えています。
後編「10年ぶりにエレキが弾きたくなった」織田哲郎が最新作『W FACE』に求めた“衝動”とは?に続く
(取材・文=神谷弘一/写真=竹内洋平)

■リリース情報
織田哲郎『W FACE』
発売日:10月30日
価格:¥3,150

<収録曲>
ディスク:RED
1. 天啓 ver.3
2. FIRE OF LIFE
3. 馬鹿なんです
4. 背中には今もブルースが張りついたまま
5. Winter Song
6. Just Another Day
7. After Midnight
8. R&R is my friend [W FACE ver.]

ディスク:BLUE
1. 月ノ涙
2. 伝言
3. あなたのうた [W FACE ver.]
4. 砂の城
5. aino uta
6. チャイナタウン・ララバイ
7. You’ve Got A Friend
8. いつまでも変わらぬ愛を [21st century ver.]

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