二つの世界を描いた二つの演出 『リディバイダー』は崩壊しつつある現実社会を映し出す

『リディバイダー』が描く崩壊する世界

 ガン・シューティングなどのアクションを楽しむTVゲームのなかで根強い人気を誇るのが、ゲームのキャラクター本人の視点でプレイできる、「FPS(ファーストパーソン・シューター)」というジャンルだ。まるで自分自身がゲームの世界に入り込んだように、敵を倒していく臨場感が味わえる。本作『リディバイダー』は、そんなゲームの演出手法が楽しめるSF映画だ。

 本作の基になったのは、2009年にYouTubeにアップされ話題となったショートムービー、"What's in the Box?"(箱の中身は何?)である。日常が不穏な雰囲気に満たされ、崩壊を始める世界を、主観映像で描いた作品だった。本作は、この内容を大幅にふくらませ、新たに生まれ代わった映画なのだ。

 ここでは、そんな『リディバイダー』の魅力や、作品が示している現実世界の問題について、できる限り深く考察していきたい。

二つの世界、二つの演出

 舞台は、エネルギーが枯渇した近未来の地球。人類は科学の力を駆使して、地球をコピーしたもう一つの世界「エコーワールド」を生み出す。そこには人や動物は住んでおらず、エネルギーを採り放題なのだという。

 この夢のような話が、あまりにも“うま過ぎる”ために、なんだか嫌な予感がしてくるが、案の定、地球とエコーワールドをつないでいる巨大なタワーが暴走を始め、二つの世界は崩壊の危機に陥ってしまう。

 原因を探るため、誰もいないはずのエコーワールドへと送り込まれるのが、かつてNASAでパイロットを務めていた男性・ウィルだ。崩壊を始めたエコーワールドに飛び込んだ彼を待っていたのは、想像もしていなかった、あまりにも過酷な事実だった。

 誰もいないはずの場所に現れる人物たち。空中を飛び回る武装ドローン。そして、刻一刻と崩壊していく世界。さらに、"What's in the Box?"でも登場したミステリアスな箱の意味とは…?いくつもの謎が散りばめられた環境で、ウィルは命を懸けた激しい戦闘を繰り広げることになる。

 地球とエコーワールド。本作は、この二つの世界をそれぞれ二つの手法でハイブリッドに表現している。人類が生きる地球は、従来の映画作品によく見られる「客観視点」で。エコーワールドは、観客が主人公・ウィルの視点を共有する、FPSを意識した「主観視点」で描かれていく。

もう一つのFPS映画『ハードコア』とはどう違う?

 本作の以前に、FPS視点を本格的に映画作品に持ち込んだのが、ロシアのイリヤ・ナイシュラー監督だ。全編にわたって主観映像が続く『ハードコア』(2015年)は、高い娯楽性を持ちながらも、映像表現の新しい扉を開く実験的な作品だった。その基になったのは、やはりYouTubeで注目を集めたショートムービーである。作品の長編映画化は『ハードコア』の方が先だが、主観映像を利用した動画をYouTubeにアップしたのは、"What's in the Box?"の方が先であった。

 この主観映像を利用した手法は、娯楽映画としては弱点があることが発見されたのも確かだった。ゲームなら自分自身が視点を操作できるが、映画はあくまでも決められたカメラワークに視点を支配されるため、長時間の鑑賞では疲れを感じる場合がある。

 映画化作品としては後発となる、本作『リディバイダー』は、この手法をより娯楽表現に馴染ませるため、二つの工夫を用意している。一つは、カメラのせわしない動きを極力避け、スムーズさを心がけていること。もう一つは、地球とエコーワールドそれぞれのシーンを交互に見せることによって、観客に長時間の負担を要求しないということだ。これによって本作は、実験性が薄まった代わりに、飛躍的な見やすさを獲得しているといえるだろう。

 マシンガンを撃ったり、手りゅう弾を投げ込んだり、主観映像のなかで武装集団と戦闘を繰り広げるシーンもある。主人公の視覚には自分の体調や状況など、ステータスが表示され、深刻なダメージを追うと、視界がぼやけて、自分の心臓の鼓動が聞こえてくる。まさにゲームをプレイしているような演出によって、アクションが表現されていく。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「作品評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる