『anone』“見えない娘”は何を意味する? 坂元裕二が描こうとする偽物=ファンタジー

『anone』見えない娘は何を意味する?

 林田亜乃音(田中裕子)から1000万円を奪った青羽るい子(小林聡美)は自分のアパートにいた。『anone』第3話の最後で、るい子の後ろをついてきた制服の少女(蒔田彩珠)は部屋の隅っこにたたずんでいる。

「私の名前はアオバ、苗字はない。この世に生まれてこなかったからだ。幽霊っていうのとは少し違うけど、まぁ、そう思ってもらえるのが一番手っ取り早い」

 アオバはるい子が高校2年の時に妊娠したが、生まれてこなかった存在しない娘だった。流産した後、るい子の中でアオバは実体化してしまい、それ以降、「親子であり気の合う友人」のような存在となった。

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 アオバによって語られる、るい子の人生は「母の願いは大抵、かなわなかった」と言われるような苦しいものだった。

 中学で野球部に入ろうとすると、「マネージャーになりなさい。いつか野球選手と結婚できるよ」と教師に断られ、高校の時にバンドを組むとバンドマンの彼氏に押し倒されて妊娠した。商社では女性差別によって出世できず、上司に相談すると、部下のいない書類を管理するだけの部署に追いやられた。会社を辞めて結婚したるい子は一児の母となる。しかし家庭はうまくいっておらず家出していた。

 第1話で小林聡美が演じる青葉るい子が登場した時、あるドラマを連想した。2003年に放送された木皿泉・脚本の『すいか』(日本テレビ系)だ。

 『すいか』の主人公、早川基子(小林聡美)は信用金庫に務める恋愛経験のない30代の女性だ。家と会社を往復するだけの日々に鬱屈を感じていた時、同僚の馬場万里子(小泉今日子)が3億円を横領して逃亡する。事件をきっかけに、自分を見つめ直した基子はハピネス三茶という下宿で一人暮らしをすることで、自分らしさを取り戻していく。

 るい子も、基子のように鬱屈を抱えた女性だ。しかし、基子を守ってくれたハピネス三茶のようなコミュニティはるい子には存在せず、より精神的に追い詰められている。

 もう一点、『すいか』を連想したのは、アオバの存在だ。木皿泉は幽霊、吸血鬼、ロボットといった人間の世界の外側にいる異界の住人の目線を通して日常を描いてきた作家だ。幽霊の娘がるい子を見守っているという構図は、極めて木皿泉的なモチーフである。

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 幽霊のような異界の住人の視線から人間を見つめ直そうという作品は2011年の東日本大震災以降、先鋭的な作家の間で増えていく。宮藤官九郎・脚本の『11人もいる!』(テレビ朝日系)、岡田惠和・脚本の『泣くな、はらちゃん』(日本テレビ系)、そして、阿部サダヲと蒔田彩珠が出演していた是枝裕和・脚本、監督の『ゴーイング マイ ホーム』(フジテレビ系)。

 これは、地震や原発事故、あるいはそれに伴う風評被害のような「みえないもの」で溢れた現実を記述するには、報道番組のような事実だけではなく「見えるものと見えないもの」を同時に記述できるファンタジーの手法こそが有効だと、多くの作り手が考えたからだろう。それを震災前から実践していたのが木皿泉だった。だからこそ、その作品は今も色あせていない。

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