知的エンターテイメント『インフェルノ』を楽しみ尽くすために ダースレイダーが解説

ダースレイダーの『インフェルノ』評

 僕の個人的な映画鑑賞スタンスはなるべく前知識を入れず、監督もキャストもなるべく知らずに出来れば予告編も観ないで臨むことなのですが、このスタンスだとたまに手痛い反撃を受けることがあります。「実は続編だった」系、そして「予備知識前提」系の作品群がそれに当たります。

 『インフェルノ』は上記の「実は続編」(これは分かりやすくナニナニ2とか3というタイトルでないので)、そしてベストセラーシリーズ小説の映画化で、しかも内容の売りが全編に散りばめられた蘊蓄(うんちく)であるという「予備知識前提」です。ちなみに3部作の3番目でもあるのですが、それぞれが独立したエピソードなので、「これはなんの話ですか?」という疑問はそれほど感じないで済みます。 それでも、『ダ・ヴィンチ・コード』、『天使と悪魔』という先行作品の小説ないし映画を観ておくに越したことはないでしょう。

 蘊蓄部分で言えば、本作はダンテの『神曲』をモチーフにフィレンツエやヴェニス、そしてイスタンブールを股にかけつつ、ルネサンス時代の建築や絵画が豊富に登場するので、この辺りに強い興味を持っている方ならば 画面を観ながらセリフを聴いているだけでも楽しめると思います。逆に、そこに全く興味がない、或いはむしろ嫌悪している!と言う方には非常に不向きかもしれませんが。

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 先行2作品はキリスト教陰謀論をあの手この手でエンターテイメントとして見せてくれるので、日常的にキリスト教を感じることが少ない日本で観ると、いわゆる異文化としてのキリスト教圏全体が持つ「荘厳」で「歴史的」 なムードを味わうことが出来て楽しいです。主人公のロバート・ラングドン教授の宗教象徴学者という職業が、そのムードを心地よく、痒いところに手が届く感じで盛り上げてくれます。さあ、そのまま身を任せて、キリスト教ワールド1周コースターを楽しんで! 2周目はコースが違うよ!

 もちろん、これは全てキリスト教ワールド内部のお話なので、そもそも論としてのキリスト教という宗教の成り立ちなり、聖書という教典の信ぴょう性といった視点は一切ありません。もし、その視点も含めた知的エンターテイメントを楽しみたいならば、リチャード・ドーキンズ著『神は妄想である~宗教との決別』を併せて読むことをお勧めします。これは2作目『天使と悪魔』のテーマ「風」に設定されている「宗教と科学」という議題を、お茶を濁すことなく取り上げているので大変楽しめます。

 本作『インフェルノ』では、観客はついにキリスト教ワールドを巡るコースターからは降りることになります。映画冒頭で、生化学者のゾブリストは「増え続ける地球人口をこのままにすれば100年で人類は滅亡する。人為的に人口を減らすべきだ」という過激な主張を展開し、それを実現するためのウィルスの拡散を企てます。

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