『HiGH&LOW THE MOVIE』の“集団戦”はいかに生まれたか? アクション監督・大内貴仁が語る

『ハイ&ロー』アクション監督インタビュー

 
複数のメディアやエンタテインメントを巻き込み展開する一大プロジェクト『HiGH&LOW』。そのひとつ、映画『HiGH&LOW THE MOVIE』が公開中だ。同作ではドラマ版から引き続き、三代目J Soul BrothersをはじめとしたEXILE TRIBEや若手実力派俳優が一堂に会し、さまざまなチームが割拠するSWORD地区での抗争がアクションたっぷりに描かれる。作品規模の大きさもさることながら、同作注目のポイントは、日本映画史に類を見ないほどアクションに特化した映画であるということだ。なぜ、あえてアクション大作なのか? 『るろうに剣心』ではアクションコーディネーターをつとめ、ドニー・イェンら世界の最前線で活躍するアクションスターと現場をともにしてきた、『HiGH&LOW THE MOVIE』アクション監督・大内貴仁氏に聞いた。


アクション監督の役割とは?

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――一般的には知られていないと思うんですが、アクション監督とは現場でどのくらいの権限を持っているものなんでしょう?

大内貴仁(以下、大内):日本におけるアクション監督像は、人によっても違うし、作品によっても違いますね。アクション監督はアクションシーン全体を構築するのが仕事だと思っています。

――具体的には、どのような流れでアクションシーンを作っていくんでしょう?


大内:ぼくの場合は、まずアクションシーンごとのおおまかなイメージを作って、そこに取り入れる要素を考えていきます。例えばワイヤーなどを使った派手な演出を取り入れるとか、このシーンは特殊なカメラワークで魅せるとか。細かい部分でいえば、バトルスタイルのイメージとかも含めて具体的にアクションを構成していきます。もちろん監督とも「こういうイメージはどうですか?」と話をします。その後Vコンテ(※本番での撮影方法や立ち回りを確認する仮の映像のこと)を作成して、それをまた監督に見せる。さらにその中で、調整が必要か必要じゃないかといったことを話し合います。まあ、たいてい「もうちょっと短いほうがいいですね」と言われるんですが(笑)。

――やりすぎちゃうんですね(笑)。

大内:そうかもしれませんね。まぁでも、そう思われるくらいじゃないといけないのかなとも思っています。久保監督とは三代目 J Soul BrothersさんのPV“S.A.K.U.R.A”でご一緒していたのがよかったのかもしれないです。こちら側の作り方をある程度理解してくれたうえで『HiGH&LOW』に声をかけてくださっていたので。

――大内さんの理想を理解してもらえる現場だった、と。

大内:理想とするアクション監督像にはまだまだ程遠いですが、少なくともこれまでで一番近いかたちでやらせてもらえたんじゃないかなと思います。

――一般的にはアクションと思われていないところでも演出されているんですね。

大内:今回のように大きな規模の作品だと、撮影中に監督に毎回確認する時間がなかったりするんですよね。監督がドラマシーンを撮っている時に、同時進行でぼくたちアクション部はスタジオで別シーンのリハーサルをやっていたりする。だからアクション前の導入の芝居や立ち位置とかは仮でこちらで作って監督に提案したりしていましたね。個人的にはアクションの導入部分のお芝居、アクション中の仕草や表情に至るまで演出することがアクション監督の仕事だと思っているので。

100対500、集団戦の長回し 大規模アクションはどうやって生まれたのか

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――ドラマも映画も集団戦がすごい迫力でした。例えば、ドラマ版の鬼邪高校や達磨一家のエピソードでの、ワンカット長回しの乱戦シーン。なぜこういうアクションをやろうと思われたんですか?

大内:逆に時間がなかったからですかね。例えばアクションはカットを割るとすごくがんばって(撮影時間が)15分でワンカット。その15分の中には準備の時間も含まれていて、動きを説明して、テストして、OKが出るまでで15分の計算。どれくらい時間がないか想像つきますよね? 1時間で撮れるカット数はわずか4カットです。例えばアクションの時間が2時間に限られていて、8カットしか撮れない状況で、記憶に残るようなアクションにするというのはほぼ不可能にちかいと思うんです。それなら2時間かけてワンカットを撮って、それを記憶に残るようなカットにしようってことです。逆転の発想ですね(笑)。

――絶対的な時間が限られていたんですね。

大内:もちろん、どの作品のどの現場にも制限や限界っていうのはあります。ただそれをマイナスに考えるのではなくて、『HiGH&LOW』でしかできない世界観や、エネルギーのようなものを映像で表現したいと思っていたんです。それは多人数のワンカットアクションもそうだし、ガラス瓶を大量に使った攻撃をしたり、火の棒を使ったアクションだったり。シーンごとにテーマをおいて他のシーンとの変化をつけたかったんです。

――物理的にもかなりハードな撮影だったのでは?

大内:『HiGH&LOW』では、「これくらい求められてるだろう」「このくらいしかできないだろう」というところの、もう一つ上を目指すようにはしていました。例えば、予算があってもキャストのスケジュールが取れなければ練習が出来ない。すごい長回しを作っても、キャストに伝える時間が1日、2日しかない。そうすると「やめとこうか」ってなるじゃないですか。そこをあえて「やってみよう!」と。できるかできないか微妙なラインにチャレンジしていくというか。だから当然アクション部やキャスト、スタッフの負担も大きかったと思います。キャストも「これ、今日1日で撮るんですか?」と、練習中に苦笑いされることも多かったです(笑)。それぐらい結構ぎりぎりのところで戦っていました。レギュラーのアクション部には、撮影終わりでもコンテ確認のために動いてもらって、それが夜中まで続くっていうのが当たり前になっていましたし。優秀なアクション部が揃っていたからこそ乗り越えられたっていうのはありますね。

――予算があるからもっと余裕があるのかと思っていました。

大内:よくそういうふうに思われます。低予算作品は予算がないけど、自由度も高い。この規模の作品になると何かしら意見も多くなるし、一つの変更点を伝えるだけでもに大作業になる。つまり、コントロールが難しくなるってことです。この規模の作品でギリギリを目指すことに意味があると思うんです。

――その最たるものが、映画での100対500のクライマックスシーンだと思います。

大内:ぼくもこれまでの作品で経験したことのない規模でしたね。実は、アクション作品で一番難しいと言われているのは“素手の戦い”なんです。

――なぜですか?

大内:刀のアクションは距離がとれて、見栄えする分ある程度は誤魔化せるんですよ。それに対して素手のアクションでは密な動きを慣れない人がすると、ごちゃごちゃしているようにしかみえない。よほどのスキルを持っているか、カメラ慣れしていないと難しいんです。だからこそ100対500のぶつかり合いは本当に大変だった。アクションに慣れていないエキストラさんたちがたくさんいる中で安全をコントロールしないといけない。しかも、その画をモンタ(※フライングモンタ。カメラをワイヤー4本で釣り、空中から俯瞰で自在に撮影できる機材)で撮ることになっていたんです。こんなワンカットのぶつかり合いは、ゲームでしかみたことないですから(笑)。モニター前にいるぼくよりも、現場で600人に安全の指示出しをするスタントマンたちのほうが大変だったと思います。本番見ているこっちはひやひやしましたよ。1人でもこけたら、将棋倒しになって大怪我につながるので。

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