森直人の『死霊のはらわた リターンズ』評:これはサム・ライミの「初期衝動 リターンズ」だ!

森直人の『死霊のはらわた リターンズ』評

 こりゃ痛快で笑うわ~。マジでめっちゃ楽しい。『死霊のはらわた リターンズ』とは邦題だが(原題:Ash vs Evil Dead)、本当に“帰ってきた感”全開バリバリで、リターンズ大賞を勝手にあげたくなるほど。筆者的に言い換えるなら、このテレビシリーズはサム・ライミの「初期衝動リターンズ」だ!

 一応、基本的な情報だけ押さえておくと、本作は2015年10月31日からアメリカのケーブルTV局“Starz”で放送されたホラー・コメディ(シーズン1、全10話)。結果的に三部作として完結していた映画『死霊のはらわた』シリーズの正規の続編である。

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 物語は、オリジナルの惨劇で唯一生き残った青年アッシュ(ブルース・キャンベル)の30年後が描かれる。ただ直接の前日談に当たるのは第一作ではなく『死霊のはらわたII』(87年)のほう。ファーストでは単なるでくの坊の大学生で、若者群像の地味なひとりに過ぎなかったアッシュだが、セカンドでは立派な主人公としてキャラ立ち。失くした右手にチェーンソーを装着し、邪悪な死霊どもをギッタギタのぐっちゃぐちゃにやっつける。決め台詞は「グルーヴィー(イカすぜ)」。“笑えるスプラッター”の求心力となるおバカ系ヒーロー像を確立した(なので初心者の予習としては『II』を観ておけば基本OK!)。

 このアッシュが、『死霊のはらわた リターンズ』ではチャラいおっさんとなって再登場する。BGMはディープ・パープルの「スペース・トラッキン」をはじめ、彼にとっての懐メロである70年代ハードロックが中心。今日も愛車の黄色い73年型オールズモービルを走らせ、バーで熟女を速攻ナンパ。さらに間髪入れずトイレで即ハメ!

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 しかし30年前に封印したはずの死霊をうっかり呼び出してしまい、彼のお気楽な日々は終わりを告げる。アッシュは勤務先の激安量販店「バリュー・ストップ」の同僚、ラテン系若手店員パブロ(レイ・サンティアゴ)とレジ係のユダヤ系美女ケリー(ダナ・デロレンゾ)も巻き込んで死霊退治の旅へ。そこに30年前の因縁も絡んでくるという展開だ。

 ちなみにシリーズ第三作『キャプテン・スーパーマーケット』(93年/DVD題『死霊のはらわたIII/キャプテン・スーパーマーケット』)は、中世に奴隷として飛ばされたアッシュの活躍を描く破天荒な傑作なのだが(ホラーというよりファンタジー・アクション・コメディといった趣)、今回のテレビシリーズにはとりあえず内容的な関連はない模様。いまとなっては貴重な外伝としておすすめしておきたい。

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 さて、ここで筆者が力をこめて振り返っておきたいのは、シリーズ原点作のことである。

 第一作の『死霊のはらわた』(81年)は、のちにトビー・マグワイア主演の『スパイダーマン』三部作(02年・04年・07年)でハリウッドの巨匠となるサム・ライミ監督が、大学を中退してカネをかき集め、地元ミシガンの仲間たちと一生懸命作りあげた長編童貞(デビュー)作。いまやカルト映画の偉大なるクラシックだが、作りはいわゆる自主映画の延長だ。

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 若い男女混成グループが休暇先の田舎でえらい目に遭う――という初期設定は『悪魔のいけにえ』(74年/監督:トビー・フーパー)を受け継ぎつつ、死霊を復活させるネクロノミコン(死者の書)と呪文を起点としたオカルト大会に加え、容赦ない人体破壊を特化して展開。ホラーから派生した凶悪なサブジャンル、“スプラッター”のひとつの画期点となった。

 このファースト作でとりわけ感動的なのは“死霊POV”の発明だ。カメラが死霊と一体化し、丸ごと猛烈にアタックしてくる衝撃の主観映像。このショットは『死霊のはらわた』シリーズのトレードマークとして、以降ステディカムを用いて繰り返し使われることになるのだが、第一作のみは“シェイキーカム”と称される手法で撮影された。要はカメラをつけた木材を二人で持って全力で走るだけ! まさに気合いこそが生命線である。

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