熱狂的『PEANUTS』ファン田中宗一郎は、映画『I LOVE スヌーピー』をこう観た

田中宗一郎、『スヌーピー』を語る

 リアルサウンド映画部オープンのタイミングでマーベル映画とアメコミについてその深い見識を披露してくれた田中宗一郎氏が再び登場、今回は現在公開中の『I LOVE スヌーピー THE PEANUTS MOVIE』について語ってくれた。(参考:田中宗一郎が語る、『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』とアメコミ映画の現在

 元『SNOOZER』編集長、現在は『the sign magazine』クリエイティブ・ディレクター、CLUB SNOOZERの主宰者である田中宗一郎氏。彼は知る人ぞ知る筋金入りの『ピーナッツ』ファンで、それが高じてファッションブランドDIGAWELとコラボレーションしてTシャツの制作にもかかわっている(これが、世のあらゆるスヌーピーTシャツの中で圧倒的に最高のかわいさとクオリティなのだ)。ディープなファンからライトなファンまで世界中に数億人いる『ピーナッツ』ファンの間で、概ね好意的な支持を取り付けている映画『I LOVE スヌーピー』だが、そんな本作を田中宗一郎氏どのように観たのか? また、彼はどうしてそこまで強く『ピーナッツ』の原作の世界に長年惹かれてきたのか? 誰もが知ってるようで実はあまり知らない『ピーナッツ』の世界へのヤング・パーソンズ・ガイドとしても打ってつけの記事となったので、是非じっくり読んでみてください。(宇野維正)

本音を言うと、ウェス・アンダーソンに監督してほしかった

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——まずは、長年の『ピーナッツ』ファンとして、今回の『I LOVE スヌーピー THE PEANUTS MOVIE』はいかがでした?

田中宗一郎(以下、田中):『ピーナッツ』を動画にすること、ましてや3DのCGで表現するというのはそもそもハードルがとても高いことで。日曜版(見開き版)もあるけど、基本は4コマ漫画なわけじゃない? コマ割りも限られているし、演劇の書き割りみたいに、ほぼ真正面からだけでとらえたショットで描かれた絵が原作なわけだから。60年代から断続的に作られてきたアニメーション版も、そこに関してはずっと苦労してきたところなんだけど、今回の映画はちゃんとその先を見せてくれた。本音の本音を言うと、例えば、ウェス・アンダーソンのアニメーション映画『ファンタスティック Mr.FOX』みたいな、真正面からとらえたカメラの制約を逆手に取るような映画的なダイナミズムというか、工夫も欲しかった気もしないでもないんだけど。でも、技術的には満足のいく仕上がりになっていたと思う。

——今回の作品のキャラクターの絵柄はどう思いました? 『ピーナッツ』は時代ごとに絵柄が変わってきているわけですが、タナソウさんは『ピーナッツ』のTシャツの制作にもかかわるなど、その変化にはかなりのこだわりを持ってますよね?

田中:どの時期の絵柄をモチーフにすることで、すべてのファンを納得させるのか?っていうのは、今作を作る上での大きな課題だったはずで。作者のチャールズ・M・シュルツの筆に一番脂がのっていたのは60年代から70年代なんだけど、彼は途中からペンを持つ右手が震えるようになって、80年代になると線がガタガタになっていって、90年代にはデッサンも狂っていく。その描線が完全に崩れ出す直前、80年代冒頭のもっとも円熟していた時期の絵柄が今作のベースになってるんだよね。過去に作られてきたアニメーション版は、アニメーション用に新たな作画を起こしているような感じだったんだけど、今回の場合は、原作の絵柄のタッチをすごく大事にしていて、その点はすごく成功していたんじゃないかな。

——時代ごとの変化について、もうちょっと詳しく教えてもらえますか?

田中:『ピーナッツ』って1950年から50年の歴史があるんだけど、おおまかに言うとディケイドごとに変わってきてるんだよね。50年代の時点で、主要キャラクターと有名なストーリーラインは一通り出揃っていて。60年代以降になると、ペパーミント・パティとか、マーシーみたいに新たな主要キャラクターが出てきて、ストーリーに当時の時代性が反映されるようになってくる。シュルツという人は、基本的にはリベラルなんだけど、保守的なところもある人で、彼が60年代、70年代と劇的に変化していくアメリカ社会をどんな風に見ているのかっていう視点が作品に入ってきた。80年代はそれまでのストーリーやキャラクターのヴァリエーションが増えていきつつも、ある種の円熟期。で、90年代に入ると、またガラッと変わる。それまで4コマだったのが、3コマになったり、2コマになったり、1コマになったりして、これまでは描いてこなかった、D-デイ(戦争の記念日)をモチーフにした作品があったり。スヌーピーが兵士の格好をして、そこにコメントが添えてあるだけの1コマの作品とか。個人的には90年代の作品にはそんなに惹かれないんだけど。例えば、チャーリーとスヌーピーの関係性とかね。もともとスヌーピーは世界で自分が世界で一番偉いと思っているから、チャーリーのことを飼い主だとも思ってないし、彼のことをRound Head Boy(頭の丸い少年)って呼んでて、飼い主の名前さえ覚えていなかった。でも、90年代には、スヌーピーがチャーリーの膝にのって寝てるとか、そういう描写が出てくる。これってファンからすると、かなりの驚きだったんですよ。でも、いつの時代の『ピーナッツ』が一番いいかっていうのは一概には言えなくて、それぞれの魅力がある。ただ、シュルツの筆のタッチだけで言うなら、60年代から70年代半ば過ぎまでが絶妙だったと思う。まあ、でも、やっぱり内容的にも、その15年くらいがベストかもしれない。今はその時期の日本語対訳版がまったく手に入らないのがすごく残念なんだけど。

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