KREVA、新作『存在感』が表すもの ヒップホップの原点に辿り着いた“個”の表現

KREVA『存在感』でみせる“個”の表現

 KREVAが8月22日に新作『存在感』を発表する。今回は5曲入りのEPサイズ。ソロ名義の作品リリースはレーベル移籍第一弾アルバムとなった前作『嘘と煩悩』以来、一年半ぶりだ。

 昨年は『嘘と煩悩』をリリース後、まずは同作を携えたツアーを行い、8月にはデビュー20周年を迎えたKICK THE CAN CREWとして14年ぶりとなるアルバム『KICK!』を発表。KICK THE CAN CREWでは『復活祭』と名付けた日本武道館でのワンマンライブや全国ツアーも展開し、疾風怒濤のごとく駆け抜けた。グループの活動は継続しており、今年は数々のフェスに出演。9月1日には『現地集合~武道館ワンマンライブ~』でキャラ立ち3本マイクが再び日本武道館のステージに立ち、その前日の8月31日には毎年恒例となった『908 FESTIVAL 2018』も行われる。

 ソロとグループの両輪を駆動させ、いつにも増して精力的に活動してきたKREVAが、その合間に完成させた今回の新作『存在感』。そのタイトル曲はダークな色彩のTrap調のトラック。サスペンスドラマが始まるかのような緊迫したピアノの音色が印象的なスローテンポの重苦しい楽曲だ。すでにMVの一部が公開され賛否両論が巻き起こっているが、この曲でKREVAは嘆くように、つぶやくように、こうラップする。

 存在感はある 
 でも、決定打が出ていない気がした
 存在感はある 
 でも、代表作が無いような気がした

 この曲を初めて耳にしたとき、あまりに実も蓋もないぶっちゃけぶりに困惑した。一瞬、自信を喪失しているかのようにも聞こえる物言いにドキッとしたのだ。

 その後公開された「存在感」のトレイラー映像に収められた本人インタビューによると、今回の作品は“思いついたことをその日のうちに曲にする”ことがテーマになっていたそうで、プレスリリースには、こうコメントを寄せている。

「『愛・自分博』のころは視点がグローバルになっていたけど、去年リリースした『嘘と煩悩』では“隣にいる人”に曲を向けた。今回この『存在感』では、ついに“個”に辿り着いた感じです」

 2ndアルバムとなった『愛・自分博』で、オリコン1位を獲得した日本のソロラップアーティスト第一号に輝き、スターダムを駆け上がったKREVA。当時、彼は国民的ラップスターをめざしていることを公言し、誰もが耳にしたことのあるモーツァルトの有名曲「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」をサンプリングした「国民的行事」をリリース。ソロラッパーでは初となる日本武道館公演も実現させた。以降はアリーナ公演も成功させ、久保田利伸、草野マサムネ(スピッツ)、布袋寅泰、吉井和哉といったビッグネームともコラボ。「音色」「スタート」「イッサイガッサイ」「Have a nice day!」「THE SHOW」などヒット曲も多数あり、近年もライブで大合唱が起きる「Na Na Na」という人気曲を生み出している。

 一方、『意味深』というライブシリーズではステージ上でトラックメイキングを生披露したり、ライブにイリュージョンを持ち込んだりと斬新な試みに挑戦し、次々に新境地を開拓してきたKREVA。1位を獲り、アリーナを埋め、自分の名前を掲げたフェスを毎年開催するほどの人気と知名度を持ち、日本の音楽界で自らの居場所を確立したKREVAが今、一体どんな「決定打」や「代表作」を求めているのか、それは本人にしかわからない。

 ただ、前述の映像で、KREVAは同曲に込めた思いについて、こう語っている。

「世の中に頑張れソングが多いので、しっかり説教ソングにしようと思った」

 なるほど、今回の「存在感」は自己不信ソングじゃないのだ。これはKREVAが自分に向けて歌った、ラップブルースの衣を借りた説教ソング。妥協を許さず、常に挑戦と進化を求めて上をめざしてきたKREVAが、さらにストイックに自分に鞭打つために書いたラップなのだろう。

 そして何回も繰り返して聴くうちに、これは内だけでなく外に向けられたメッセージソングとしても機能する歌だと気付いた。学校のクラス、会社、はたまたスポーツ界、政治界、この歌を聴いてハッとさせられる人はいるだろう。おそらくボーッと毎日を生きてる人には刺さらない歌。だけれど、今、活躍中だったり、注目されているからこそ、もうひとつ上をめざして必死に頑張ってる人、もがいてる人にはグサグサ刺さるように思う。

 ダンスホールとブーンバップとクラシックが混ざり合った「INTRO」で幕を開け、「存在感」のあとは、新味なラガフロウが顔を覗かせる「俺の好きは狭い」、オリジナルかつ最新形のTrapを聴かせる「健康」、わかりやすいライミングとメロディーアスなフロウがクセになる「百人一瞬」と続く本作。どの曲もKREVAが今、考え感じ思考していることを衝動的に表現した楽曲だという。

 ヒップホップの根底にあるのは「マイセルフ」の表現。前述の映像では今回の作品制作が「いい気づき」になったとも語っているが、原点とも言える “個”の表現に辿り着いた彼が、ソロデビュー15周年を迎える来年に向けてどんな歌を紡ぎ出していくのか。KREVAがめざす山の頂は遥かに高い。

KREVA『存在感』Music Video+Trailer

(文=猪又 孝)

■リリース情報
『存在感』
発売:8月22日(水)
【初回限定盤(CD+DVD)】¥2,300(税抜)
【通常盤(CD)】¥1,500(税抜)
※初回限定盤はスペシャルパッケージ(デジパック仕様)
〈CD〉
1. INTRO
2. 存在感 
3. 俺の好きは狭い 
4. 健康 
5. 百人一瞬 
〈DVD〉
1. 存在感 (Music Video)
2. 存在感 (Making)

・配信情報
8月22日(水)より、iTunes Storeほか主要配信サイト、Apple Music、dヒッツほか定額制聴き放題サービスで配信予定

『存在感』特設サイト

■ライブ情報
『908 FESTIVAL 2018』
8月31日(金)日本武道館
出演アーティスト:KREVA / 三浦大知 / 絢香 / JQ from Nulbarich / 尾崎裕哉 /高畑充希
開場/開演:17:30 / 18:30
チケット代:8,300円(税込)
※U19キャッシュバック(19歳以下の来場者には当日500円返金)
908 FESTIVAL特設サイト

『クレバの日 スペシャルライブ 〜大阪編〜』
9月08日(土) Zepp Osaka Bayside
開場/開演:17:45 / 18:30
1Fスタンディング/スペシャルプレゼント付 ¥9,080(税込)
2F指定席/スペシャルプレゼント付 ¥9,580(税込)
一般公演チケット発売日:9月1日(土)
お問合せ:キョードーインフォメーション 0570-200-888(10:00-18:00)
クレバの日〜大阪編〜特設サイト

オフィシャルサイト

KICK THE CAN CREW

■リリース情報
『住所 feat. 岡村靖幸』
発売:8月29日(水)
初回限定盤(2CD)¥2000+税
通常盤(CD)¥1000+税 

<CD収録曲>
1.住所 feat. 岡村靖幸
2.Keep It Up 
3.住所 feat. 岡村靖幸 (Inst.)
4.Keep It Up (Inst.)

<BONUS CD> ※初回限定盤のみ付属
昨年発表した最新アルバム『KICK!』ライブ音源を全曲収録
01. 全員集合
02. 千%
03. 今もSing-along
04. SummerSpot
05. なんでもないDays
06. 完全チェンジTHEワールド
07. また戻っておいで
08. また波を見てる
09. I Hope You Miss Me a Little
10. タコアゲ

8月29日よりiTunes Storeほか主要配信サイト、Apple Music、dヒッツほか定額制聴き放題サービスで配信予定

KICK THE CAN CREW 「住所 feat. 岡村靖幸」Music Video

■ライブ情報
KICK THE CAN CREW
『現地集合~武道館ワンマンライブ~』
9月1日(土)日本武道館

■関連リンク
KICK THE CAN CREW HP
岡村靖幸 OFFICIAL HP
KICK THE CAN CREW New Single「住所 feat. 岡村靖幸」スペシャルサイト

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