渋谷すばるは関ジャニ∞の“音楽的支柱”だったーーグループ脱退に寄せて

 アルバム『ジャム』のライナーノーツをはじめ、これまでに何度となく関ジャニ∞の記事やインタビューを担当させてもらってきたが、その多くは「音楽的な部分を引き出してほしい(書いてほしい)」という依頼だった。関ジャニ∞はデビュー当初から現在に至るまで、ロックバンド/ミュージシャンとしての側面を打ち出そうとしているからだ。最初の頃は正直言ってアイドルの余技くらいにしか思っていなかった筆者も、ライブのたびに演奏力を上げ、バンドとしての個性を確立していく彼らの姿を見るうちに“確かにこういうバンドは他にはいないよな”と実感するようになった(昨年の野外フェス『METROCK』におけるパフォーマンスは、その好例だ)。そして、関ジャニ∞の音楽的な支柱になっていたのは間違いなく“渋谷すばる”その人だった。前述した「音楽的な部分を引き出してほしい」というオファーはつまり「渋谷から音楽の話を聞いてほしい」とほぼ同義であり、それはきわめて魅力的な仕事であると同時に、かなりハードルが高いミッションだったと言わざるを得ない。

 eighterにとっては周知の事実だろうが、渋谷は決して愛想の良い人間ではないし、サービストークをできるタイプでもない。取材の現場でも口数は少なく、場合によってはほとんど話さないということもあった。それは性格や態度が悪いという話ではなく、筆者には“自分の本心しか話さないと決めているので、場合によっては話すことがない”というふうにしか見えなかった。そんな彼が饒舌になるのは“メンバーが作った楽曲”の話題。シングルの表題曲、アルバムのリードトラックなどは様々なクリエイター、作家から提供されることが多かったが、シングルのカップリング曲、アルバムのボーナストラックなどにはメンバーが制作に関わった楽曲が収録されることが多々あり、その話題になると渋谷は生き生きとした表情でいろいろなことを語ってくれるのだ。それはつまり、メンバーに対する愛情であり、信頼できる人間が作る音楽に対する愛着の発露に他ならない。それ以外で話が弾むトピックは、レコードと楽器、彼自身が観に行ったライブ(ザ・クロマニヨンズとかThe Birthdayとか)のことなど。内心「その調子で他の曲のこともしゃべってくださいよ」と思わなかったといえばウソになるが、そんな彼の姿勢に触れるたびに筆者は「音楽だけをやりたい人なんだな、本当は」という思いを強くしたのだった。

 渋谷自身の音楽的な志向を露わにできる場所はやはり、ソロ活動ということになる。筆者は渋谷の主演映画『味園ユニバース』とリンクした2015年の『渋谷すばる LIVE TOUR 2015』、そして、ソロカバーアルバム『歌』を携えて行われた2016年の『渋谷すばる LIVE TOUR 2016 歌』のツアーを観る機会に恵まれたのが、どちらのツアーにおいても彼は、自らの音楽的ルーツにとことん忠実であり、“自分の音楽はこういうものだ”という意志を愚直なまでに見せつけていた。開演前のSEは古いブルースとロックンロール。ライブは完全に生バンドで行われ、渋谷はギターとブルースハープを演奏しながら、どこまでも真っ直ぐに自らのボーカルを叩きつける。すべてのフレーズを全力で歌い、独特なビブラートを力強く響かせる彼のステージングからは、好き嫌い、良い悪いは別にして、圧倒的な個性を感じ取ることができた。爆発的な大音響を含め、“いまやりたいことをやるだけ”という気合いに溢れたステージングは痛快の一言。2ndツアー『渋谷すばる LIVE TOUR 2016 歌』後のインタビューで本人に「あんなに音のデカいライブ、久々でした」と言ったときの、「すいませんね、俺、頭おかしいんで」と答えてくれた渋谷の笑顔は、いまも鮮明に覚えている。

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