DracoVirgo×毛蟹が語る『Fate/Grand Order』の魅力と「清廉なるHeretics」制作秘話

DracoVirgo×毛蟹が語る『FGO』の魅力

 TYPE-MOONによる人気ゲーム/伝奇活劇ビジュアルノベル『Fate/stay night』を起点にした幾多の関連シリーズの中でも、様々な時代や国をまたにかける人理継続保障機関・カルデアの活躍を壮大なスケールで描いていくスマートフォン向けFateRPG『Fate/Grand Order』。この作品は2015年の配信開始以降、2016年末に第1部が完結、2017年末に第1.5部「Fate/Grand Order -Epic of Remnant-」の完結を経て、2018年4月にはいよいよ最新章となる第2部「Fate/Grand Order -Cosmos in the Lostbelt-」第1章の配信がスタート予定。ゲームにかかわる楽曲を集めたサウンドトラックの最新作として、「-Epic of Remnant-」に使用された楽曲やイベント用楽曲などを3枚組にまとめた『Fate/Grand Order Original Soundtrack II』が、3月28日にリリースされる。

 リアルサウンドでは、その収録曲を担当したクリエイター陣に連続インタビューを行った。第1回は、1692年にアメリカの田舎町セイレムで実際に起きた魔女裁判をモチーフに少女の愛や孤独、狂気を描く、第1.5部「亜種特異点Ⅳ 禁忌降臨庭園 セイレム 異端なるセイレム」のテーマソングとなった、毛蟹 feat. DracoVirgo「清廉なるHeretics」に焦点を当ててみたい。TVアニメ『少女終末旅行』のOP曲「動く、動く」の作詞/作曲を担当し、TrySailの最新シングル「WANTED GIRL」にも編曲でかかわるなど近年活躍著しいマルチクリエイターの毛蟹と、元HIGH and MIGHTY COLORの3人による新バンド、DracoVirgoの2組に、楽曲の制作過程や『Fate/Gand Order』ならではの魅力を語ってもらった。(杉山仁)

コラボのきっかけとなったキーワードは「ゴシックメタル」

――「異端なるセイレム」(以下「セイレム」)のテーマソングとなった「清廉なるHeretics」での2組のコラボレーションは、どんな風に実現したものだったのですか?

毛蟹:一番初めからお話しますと、「セイレム」のテーマソングに僕がご指名いただきまして、実は最初、「清廉なるHeretics」とは違う、もう少し「魔女裁判」っぽい、おどろおどろしい、カオスな雰囲気の楽曲の準備を始めたんです。ただ制作を進める中で「少し方向性が違うのかな?」という流れになり、一から作り直すことにしました。それからアニプレックスの山内真治さんとお話を重ねて、「楽器で宗教的な雰囲気を出そう」「現代の要素も感じられるものにしよう」という話になり。それを音楽的にどう表現するか考えた結果、まずはEvanesnceceのようなゴシックメタルのアイデアが出てきたんです。

左から、毛蟹、mACKAz、MAAKIII、SASSY。

――かつての魔女裁判にも通じるキリスト教的な世界観と、現代の音楽要素を兼ね備えたものとして、まずは「ゴシックメタル」というキーワードが出てきた、と。

毛蟹:そうですね。そのとき、「だったら、同じサウンドコンセプトで曲を作った経験のある、HIGH and MIGHTY COLORの元メンバーに演奏で参加してもらう?」と山内さんにご提案いただいたのがコラボレーションのきっかけです。そうすることで楽曲をより高度なところに持っていけそうだと思いましたし、なにより、僕は10代の頃からハイカラの大ファンだったので、僕のテンションは上がるだけという感じで(笑)。ブレストの段階から色々な楽しみがあって、最終的にコラボレーションが実現した形でした。

毛蟹

――最初は毛蟹さんからデモを投げる形で制作がスタートしたんですか?

SASSY(Dr/DracoVirgo):そうですね。最初に「Evanescenceのような要素がほしい」というお話をいただいていて、実際にデモを聴いてみたらまさにその通りの楽曲で。

mACKAz(Ba/DracoVirgo):僕らはその中で好き勝手にやらせてもらったイメージでした。やり過ぎて何か言われたら、そのときは引けばいいかな、という考え方で。

毛蟹:僕としても、自分がデモの段階からかなり作り込んでいくタイプなので、それをみなさんの力でぶっ壊してほしいと思っていました。「まずは全力でデモを作って、それを広げてもらおう」と。その結果、かなり洗練されたフレーズを入れていただいて圧巻でした。

SASSY:MAAKIIIの歌が入った時点でも結構雰囲気が変わりましたね。

MAAKIII(Vo/DracoVirgo):恐縮です(笑)。でも、最初はプレッシャーも感じていました。デモの段階でかなりクオリティの高い楽曲だったので。

SASSY:そうそう。ちょうど3人一緒にいるときに初めてデモを聴かせてもらったんですけど、みんなで「クオリティ高!」って言い合いました。

MAAKIII:「これ、デモなんですか?!」って(笑)。

SASSY:だからこそ僕らは、「このデモを全力で越えていこう」と、めちゃくちゃ気合を入れて準備をしていきましたね。

――この楽曲は冒頭、哀しさや妖しさを感じるピアノの音色とMAAKIIIさんの歌声が絡むパートからはじまって、その後ラウドな爆音のバンドサウンドが一気に顔を出す構成になっています。これはどんな風に考えていったものだったんでしょう?

毛蟹:僕は歌詞も書く都合上、シナリオを先に読み込んでから曲を作りはじめたんですけど、その中で物語にスイッチが入る瞬間があったので、その切り替わりを曲の中でも出したいと思ってこの構成にしました。鍵盤やチェンバロは僕がすべて打ち込んでいるので、その辺りもデモの段階からあったものですね。デモを作る段階では、曲と詞をある程度分けて考えていきました。曲自体は、途中で切り替わる展開もそうですが、物語の進行に寄り添うように作っていきました。そして、逆に歌詞の方は、終始キャラクターのことについて書いていきました。そもそも、『Fate』シリーズの魅力って、『Fate/stay night』の頃からそうだと思うんですけど、とにかくキャラクターが魅力的だということで。それが『Fate/Grand Order』では、ソーシャルゲームになったことで爆発した部分があると思うんですよ。

――『Fate/Grand Order』では、登場キャラクターの数が一気に増え、それも歴史上の偉人や神話などをモチーフにしたかなり壮大なものになっていますね。

毛蟹:ソーシャルゲームになることでキャラクターのシナリオ上の上限がなくなって、あとはとにかく魅力が増大していくだけだという話で。でも、そうすると、その中で特定のキャラクターについての歌詞を書くのは、なかなかハードルが高いことだとも思うんです。それもあって、僕の中ではあくまで特定のキャラについて書いているものの、聴いた人によって別のキャラクターにも置き換えられるものにしたい、とはずっと思っていました。実は「セイレム」のひとつ前にあたる第1.5部「亜種特異点Ⅲ 屍山血河舞台 下総国 英霊剣豪七番勝負」のテーマソング「一刀繚乱」で作詞を担当させていただいたときも同じ仕掛けをしていて、あの曲の歌詞では、具体的には宮本武蔵について書いているものの、読み方によって風魔小太郎にも思えるようなものにしたいと思っていました。「セイレム」でも、そういう仕掛けを意識して歌詞を書いていきました。

 DracoVirgo、始動後初レコーディングで掴んだバンドの手応え

――DracoVirgoのみなさんは、そこにそれぞれの個性を加えていく形だったと思います。担当パートについはてどんなことを意識してレコーディングに臨みましたか?

SASSY:まずはやりたいことを全部乗せして詰め込んで、そこから毛蟹さんや山内さんとも相談しつつ、さらに「てんこ盛りのてんこ盛り」というか、よりドラマティックなものになるよう意識していきました。僕とmACKAzのリズム隊は、どれだけバンド感を出せるかにも重きを置きましたね。バンドマン精神を全開にして、どっちも主役としてやり合うように演奏しました。中でもドラムで特に意識したのは、曲を通して徐々に音が荒ぶっていくような雰囲気と、あとは最初にドラムが入ってくるところ。実はあの部分は、音をかなり重くしています。最近のレコーディングの中でも一番(スネアのチューニングを)ローピッチにして、ゲートリバーブをかけて、その音で曲の世界観に入っていけるように意識しました。

MAAKIII:私の場合は、曲に引っ張っていただいた部分が大きかったですね。「清廉なるHeretics」(=清廉なる異端)は、タイトルからして対極のイメージのものがひとつになっていて、歌詞からも静けさの中にある闘志や強さのようなものを感じたので、サウンドと一緒になって歌声で世界観に力を添えられたら、と思っていましたね。最初は緊張して、なかなか肩の力が抜けなかったんですけど、曲調的にも途中で雰囲気が変わるので、そこも意識して歌って……。曲にあるパッションやエモさを表現できるように気を付けました。

mACKAz:ベースの場合は、デモの段階で目立つ部分がいくつかあったので、そこはなるべく残しつつ、それを踏まえてどう自分なりのフレーズを盛り込むかを意識していきました。特に、ベースのピックアップからラストのサビへの盛り上げ方を自分なりに考えていきましたね。レコーディング現場では毛蟹さんとも録りながら色々と相談をして、どちらかが極端に相手に合わせていくのではなく、お互いの個性を出していくような作業にすることが出来たと思います。そうでないと、やる意味がないですから。すごく楽しい作業でした。

毛蟹:もともと好きな人たちなので、僕はレコーディング中はド緊張してました(笑)。

mACKAz

MAAKIII:でも、全然緊張している感じはなかったですよ。どっしりとしていて、むしろ安心感があって、頼れる感がハンパなかったです。

mACKAz:そもそも、「毛蟹」さんという名前自体に結構パンチがあるじゃないですか(笑)。

毛蟹:(笑)。僕は当日ギターも弾きましたけど、最初は緊張してブースに入れずに、ブースの入り口でギターを持ってずっと立ち尽くしていましたから。DracoVirgoのみなさんが演奏するたびに、「これ聴いたことある……!」「この音知ってる……!」って言ってました。僕はもともと、HIGH and MIGHTY COLORさんの音楽とルーツがすごく近くて、10代の頃、USラウドロックにかなりハマっていたんですよ。その頃からオタクだったので、アニメを色々と観ていて、そのOP/EDでそういう音楽がよく流れているぞ、と気づいたのがきっかけでした。その魅力に殴られて、ラウドな音楽に一発でハマってしまったというか。それから10年近く経って、今回DracoVirgoさんとご一緒させていただいて、僕は「このフレーズどう?」と言ってくれるだけでも嬉しかったです。レコーディングからトラックダウンまでの期間は、本当に幸せな一週間でした。

MAAKIII:私たちとしても、昨年DracoVirgoをスタートさせてすぐに今回のお話をいただいて、すごくいい時間を過ごさせていただきました。

mACKAz:それこそ、「清廉なるHeretics」はDracoVirgoにとっての1回目のレコーディングだったんですよ。僕も8年振りくらいにMAAKIIIがレコーディングしているところを見たんですけど、作業自体はかなりサクサクと進んでいましたね。

SASSY

――先ほどお互いの個性を加えたものにしたいと話していただきましたが、そういう意味で具体的に思いつくパートや出来事はありますか?

SASSY:たとえば通常のサポートで呼ばれる現場だと、自分の手順で解釈して演奏をし過ぎると、当然あとで「ここはちょっと直そう」という話になることもありますけど、今回一カ所、気持ちがほとばしってしまってデモとは違う感じで僕がフィルインを叩いたところがあったんですよ。でもそこで、毛蟹さんとmACKAzが僕の演奏に合わせて演奏してくれていて、「これもうバンドじゃん!」と思いました(笑)。そこはすごく嬉しかったですね。

mACKAz:演奏を離れたところで言うと、僕もアニメ好きなので、現場でアニメの話で盛り上がりました。そのときに、毛蟹さんが『Fate』シリーズを以前からずっと好きだったという話を聞いて、「この高いクオリティは、作品への深い理解度から来るものでもあるんだな」と納得しました。世界観も、音色ひとつにしても、そこに愛があるからこそなんだな、と。

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