>  >  > PAELLASの音楽はリスナーにどう浸透する?

日本の音楽シーンが迎える大胆な変化 今の時代感にフィットするPAELLAS『Yours』を聞く

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 この数年胎動していた日本の新しいポップミュージックは、狭義のインディーシーンを飛び越えて、新たなメインストリームになり得る手応えがある。

 音楽性だけでなく、その発言やパフォーマンス力にカリスマ性を帯びてきたSuchmosは昨年、メジャーとタッグを組み自身のレーベル〈F.C.L.S〉を始動。また、音楽的なベクトルは様々だが、Yogee New WavesやNulbarich、DATSらの今後リリースの新作はメジャーからのリリースとなる。なかでもNulbarichは、メジャー契約以前からすでに東京で言えば、新木場STUDIO COASTを2日間ソールドアウトできるほどの動員力を持つ。もちろん前述のバンドたちもNulbarichのようにライブの評価が高く、しかもファンは90年代生まれもその親世代も含む層の厚さを誇っている。

 さらに、一足先にメジャーデビューを果たしたバンドでいうと、Awesome City Clubは新作EP『TORSO』でこれまでの“架空の街のサウンドトラック”という設定を超えた生身のリアリティを打ち出しているし、すでにJ-ポップや邦ロックフェスのファン層にも訴求力のある雨のパレードも新作アルバム『Reason of Black Color』で、生バンドとエレクトロの融合のレベルを超えた、クールなファンクや新しい解釈のグランジーなサウンドなどにもアプローチしている。

 各々のバンドのバックボーンは海外のインディロックやヒップホップなど異なるものの、もはや彼らの意識は「海外の音楽をいかに自身の作品に昇華するか」ではなく、もっとフラットに「自身の作品は海外の音楽と並行しているか」という部分に向いているように思う。そして、それはリスナーも同様であり、純粋に良質で新しい示唆のあるバンド/アーティストを求めているのが2018年前半の現状だと考える。

 その「良質で示唆のあるバンド」の一翼を担う存在であるPAELLAS(パエリアズ)が、前作EP『D.R.E.A.M.』からわずか半年でミニアルバム『Yours』を3月7日にリリースする。前作からSPACE SHOWER MUSICからのリリースとなり、これまでのインタビューなどの中でメンバー全員の嗜好としてフランク・オーシャン、ブラッド・オレンジ、ザ・ウィークエンド、ラナ・デル・レイ、ニック・ハキム、シド・ザ・キッドなどを挙げていたが、ボーカルのMATTONが「そんな特別なものというより、みんな(同世代・同時代の人というニュアンス)が聴いてるような音楽」だと表現しているあたりから察するに、インディロックの感覚を通過してきたヒップホップやラップミュージック、逆にラップミュージックのエッセンスを理解しているオルタナティブポップやインディポップからのリファレンスを受けていることは間違いない。

 丹念にギターやシンセ、サンプラーの単音を編み、圧の少ないビートで構成された楽曲群は冒頭に挙げたバンドと比べても、より繊細で、洋楽を聴くようにさらっと流すこともできる。だが、意識しなくても残るメランンコリーと上品なセクシャルさに惹かれて、さらにじっくり楽曲に耳を傾けると、都市の喧騒もその虚無も知っている若者の心象も浮かび上がってくる。それは『D.R.E.A.M.』から一部、日本語詞も取り入れ、ふと耳に残るフレーズが際立つ作風に変化したことも一つの理由だろう。意味がわかるからより開かれた作品になったというより、孤独な一人ひとりに響いた結果、表層ではない部分でPAELLASの音楽が浸透すること、そちらの方が「開かれた作品」という捉え方なのではないだろうか。

 そして新作『Yours』はいよいよ全6曲全てが日本語詞に。すでに先行配信されている「Echo」は、淡々としつつ前進するタイトなリズムの上をSatoshi Anan(Gt)の選び抜かれたフレーズが滑り、さらにMATTONが書く詞が新鮮だ。人間関係における曖昧さや畏れの感情と同時に、あなたと僕の間で何らかの“はじめて”を起こしたいという前向きな意思が伺えるからだ。

PAELLAS (パエリアズ) “Echo” (Official Music Video)

 また、ファンキーなカッティングと深いディレイが熱さと冷たさを同居させる今の20代ならではのAORと言えそうなbisshi(Ba)作曲の「Miami Vice」、インディR&Bのニュアンスの中でも神聖なムードすらある「Pray For Nothing」、また、アルバム『Pressure』に収録されていた時は英語詞かつ映像的なイントロダクションが付されていた「Darlin’ Song」に日本語詞が付けられ、「Darling Song(reprise)」として収録されている。これまでもPAELLASが描いてきた人と人の関係性の薄さにまつわるメランコリックな心象は、本作でも変わらず底に流れている。忘却のメタファーのように度々登場する“雨”は、ラストナンバーの「Over The Night」で〈雨の音をかきわけてきた〉と表現され、ついには〈僕は声を諦めていないよ〉という意思に到達する。日本でポップミュージックがリスナーのものとして到達する要素として欠かせない「言葉」に正面から向き合ったことが本作の変化だろう。それはまさしく「Yours」=あなたのものに音楽がなれるかどうかの一線でもある。

 また、4人体制となった本作では、生楽器の研ぎ澄まされたサウンドとアンサンブルが重視されており、「Miami Vice」でのイントロのギターリフやエレピの音像をはじめ、バンドアレンジの構築に80年代の山下達郎作品の影響を消化した印象も受ける。もっとも、そのニュアンスはグッとクールでインドアなものに変換されてはいるが、時代を横断して抽出された彼らによる洗練されたサウンドが浮き上がっていることも興味深い。

 加えて、歌い上げるのではなく平熱感を保ち、しかもセクシーで品のいいMATTONのボーカルはジャンルを超えて、今の時代感にフィットする。三浦大知や清水翔太、w-inds.ら、J-POP領域のシンガーが国内外のトレンドに敏感に反応して新たなリスナー層にアピールしている今、R&B/ヒップホップ・マナーのボーカリゼーションは、PAELLASのようなバンドにとっても有利に働く予感がある。そういう意味ではPAELLASが2018年の日本の音楽シーンをドラスティックに変えていく瞬間に、これから立ち会える機会がありそうだ。引き続き、その可能性を追い続けていきたい。

■石角友香
フリーの音楽ライター、編集者。ぴあ関西版・音楽担当を経てフリーに。現在は「Qetic」「SPiCE」「Skream!」「PMC」などで執筆。音楽以外にカルチャー系やライフスタイル系の取材・執筆も行う。

■リリース情報
『Yours』
発売:3月7日(水)
価格:¥1,600+税
<収録曲>
1. Echo
2. Miami Vice
3. Pray For Nothing
4. daydream boat
5. Darlin’ Song (Reprise)
6. Over The Night

■『Yours』店頭先行試聴詳細
<先行試聴楽曲>
1.「Echo」 2.「Pray For Nothing」 3.「Over The Night」
<実施期間>
2月27日(火)〜3月5日(月)
<実施店舗> ※TOWER RECORDS
TOWER RECORDS 札幌ピヴォ店、盛岡店、仙台パルコ店、新潟店、浦和店、アリオ鷲宮店、津田沼店、汐留店、秋葉原店、渋谷店、吉祥寺店、新宿店、町田店、池袋店、八王子店、川崎店、横浜ビブレ店、静岡店、ららぽーと磐田店、名古屋近鉄パッセ店、名古屋パルコ店、鈴鹿店、京都店、梅田大阪マルビル店、難波店、梅田 NU 茶屋町店、あべのHoop 店、神戸店、アリオ倉敷店、イオンモール倉敷店、広島店、アミュプラザ博多店、福岡パルコ店

■ライブ情報
『Yours Tour2018』
3月10日(土)
会場:札幌 COLONY 
ゲスト:PARKGOLF
3月17日(土)
会場:名古屋 APOLLO BASE 
ゲスト:Tempalay
3月18日(日)
会場:大阪 Shangri-La 
ゲスト:Tempalay
3月20日(火)
会場:福岡 the VooDoo Lounge 
ゲスト:Seiho
3月22日(木)
会場:仙台 LIVE HOUSE enn 2nd 
ゲスト:向井太一
3月24日(土)
会場:東京 WWWX
※東京公演のみワンマンライブ

<一般販売>
1月27日(土)よりイープラス、ローソンチケット、チケットぴあにて。

■関連リンク
PAELLAS オフィシャルサイト

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