楽曲の著作権侵害、注意すべき点は? 弁護士に聞くラナ・デル・レイとレディオヘッドの騒動

 現地時間1月7日に米シンガーのラナ・デル・レイが、自身の曲「Get Free」がRadiohead「Creep」に酷似しているとして、Radiohead側に100%の著作権料支払いを求められて訴訟を提起されている、とTwitterで明かし話題を呼んだ(Radiohead側は否定)。過去にはThe Verve「Bitter Sweet Symphony」がThe Rolling Stones「The Last Time」と酷似しているとの理由から、100%の著作権料を支払い、楽曲クレジットもThe Rolling Stonesのミック・ジャガーとキース・リチャーズを加えた「ジャガー/リチャーズ/アシュクロフト」に変更するといった例があった。そこで元音楽雑誌編集者であり、著作権法に詳しい弁護士・小杉俊介氏に今回の事例の妥当性や、アーティストが気をつけるべきポイントなどを改めて聞いた。

ラナ・デル・レイ『Lust For Life』

 小杉氏はRadiohead側が否定していることを受け、おそらく実際には訴訟は提起されていないだろうと推測。さらに「Get Free」について、これまで盗作騒ぎになった先例と比較すると、Radiohead側に100%著作権料を支払うのは妥当ではないが、クレジットにRadioheadの名前が入るのはやむをえない程度には似ている、と印象を語った。

「以前あった『Bitter Sweet Symphony』の事例では、事前の合意よりも楽曲のサンプリングが長く使用されたことが問題になったという経緯があります。したがって『Bitter Sweet Symphony』が『The Last Time』とほぼ同じメロディなのは間違いなく、The Rolling Stones側が収録アルバムの店頭からの回収まで求めたという噂もあるほど。名盤を手放すくらいなら……とThe Verve側がジャガーとリチャーズの名前をクレジットに追加、著作権料を100%支払うという判断をしたのではないかと思います。ほかに裁判沙汰になった例ではロビン・シック『Blurred lines』がマーヴィン・ゲイ『Got to Give It Up』に似ているとして訴訟されたことがありました。しかし、実は訴訟が起こる例は珍しく、示談交渉で決まることがほとんど。今回はその交渉のもつれが、ラナ・デル・レイのツイートによって浮上した結果だと言えるでしょう」

 表に出ることは少ないものの、アーティスト間で著作権を争うことは珍しくない。マーク・ロンソンとブルーノ・マーズによる「Uptown Funk!」のクレジットに、The Gap Bandの名前が入っていたのも示談交渉の結果だという。では、実際に裁判となった場合の争点はどのような点になるのだろう。

「裁判の際に争いになる点は大きく言って2点で、実際に似ているかどうかと、先行している曲に依拠しているかどうか。これは日本でも英米でも大きくは変わりません。実際に似ているかどうかは、どこまで言っても印象論なので、判断は難しい。現実的に争いになるのは、先行曲に依拠しているかどうか、です。これまで大規模な裁判になっている曲の共通項は、誰もが知っているような有名な曲であること。逆に言えば、“影響を受けていない”“知らない”とはっきり言えるような曲の場合には、盗作の主張が認められるのは難しいのです。そんな曲聞いたことない、と言われてしまえばそれまでですから」

 今回の場合、ラナ・デル・レイはTwitterで「Creep」の影響を否定している。しかし、「Creep」はあらゆる世代から認知されるポピュラーなヒット曲ではないものの、多くのロックファンの間で愛され続けている有名曲だ。小杉氏は「今回のアルバムタイトル『Lust for Life』自体がイギー・ポップの楽曲/アルバムタイルからの引用であることが象徴するとおり、ラナ・デル・レイの音楽活動自体がロックカルチャーについての批評性を帯びていることから考えても、ラナ・デル・レイの主張には無理があるのでは」とも指摘した。楽曲がそっくりとまでは言えなくとも、「Creep」の影響を受けていないと主張することが難しいという現実を踏まえると、先例に照らす限り、ラナ・デル・レイ側が提示していた「著作権料40%の支払い」といったあたりが妥当な落としどころなのではないか。

 最後に小杉氏は、日本でこうした訴訟問題を耳にする機会は少ない理由について教えてくれた。

「訴訟してお金を取るのは、ある一定規模の市場規模がないと経済的に見合わない。日本ではそこまで市場規模の大きい曲がない、という身もふたもない理由が一番大きいと思います」

 J-POPの中には海外楽曲から影響を受けたものも少なくないと考えると、海外アーティストから指摘を受ける可能性もあるだろう。しかし今回の事例からも分かる通り、著作権侵害か否か、という法律上の線引きは難しそうだ。

(文=村上夏菜)

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