キノコホテル『プレイガール大魔境』リリースインタビュー
マリアンヌ東雲が語る、キノコホテル創業10年の軌跡「どこをどう切ってもキノコホテルでしかない」
キノコホテルが創業10周年記念作品となるアルバム『プレイガール大魔境』をリリースした。本作には、全く新しいアレンジを施し、再レコーディングされた既発曲10曲に、未発表曲を加えた全11曲を収録。ゴリゴリのハードコアパンクからジャズ歌謡、 ミュンヘンディスコ、アイドル歌謡まであらゆる音楽を飲み込んで独自の世界観として表現し尽くすクリエイティビティの妙は、日本の音楽シーンの中で異彩を放ち続けてきた彼女たちの“今”を鮮烈に提示している。昭和歌謡/GSという周囲からのイメージを払拭せんと暴れ続けてきたキノコホテルの10年とは果たしてどんなものだったのか? そして、その歩みの“総括”となる本作はどんな思いで制作されたのか? キノコホテルの創業者であり支配人のマリアンヌ東雲にじっくりと話を訊いた。(もりひでゆき)
「良くも悪くも変われなかった10年」
ーーキノコホテルはこの6月24日で創業10周年を迎えます。おめでとうございます!
マリアンヌ東雲(以下、東雲):ありがとうございます。個人的には飽き症で何をやっても長続きしなかったタイプですので、非常に新鮮な気分ですね。メジャーデビューしたあたりから「なんかちょっと大げさなことになっちゃったわ」みたいな気持ちもあったんで、よく続いたなと。
ーー飽きることなく続けられたということは、つまりキノコホテルというバンドがご自身の中で魅力的な存在だったということなんでしょうね。
東雲:10年生きていると人にはいろんな変化が起こりますけど、そういったものをいろいろ乗り越えながらも結果的に続けてきたというのはそういうことなんだと思うわね。
ーーバンドとしての音楽性やビジュアルを含めたコンセプトはこの10年間でまったくブレていない印象もあります。そこは貫こうと意識していました?
東雲:特別、そこを貫くことに執着してるわけではないんですけれども、自分の本性や根っこにある部分はなんだかんだで変わりようがなかったってことなんでしょうね。良くも悪くも変われなかったというか。「変わってなんぞやるものか」という気持ちではなく、もう少しナチュラルにやってきた中で、結果的に変わらない部分が大きかった。だからこそ変わる部分があっても動いてこれたような気がします。
ーー軸はブレさせずとも、発表される楽曲はどんどん多種多様になっていきましたからね。デビュー当初は、昭和歌謡/GSというジャンルでくくられることが多かったわけですけど、それだけじゃないんだということをこの10年できっちり証明してきたような気がします。
東雲:デビューの段階でGSや昭和歌謡と言われることはもちろん想定内で、半ば確信犯的なところもあったのよね。シーンの中にそういう音楽性を露骨に出しているグループがいなかったから、キノコホテルの特殊性を伝える上での代名詞をわかりやすく作ってしまおうじゃないかと。最初のとっかかりとしてはそれでいいという気持ちもあったんです。そもそもそんなに長く続けるつもりはなく、一時、楽しい思いができればいいやくらいの気持ちだったから。
ーーでも、そこで自ら提示したイメージに苦しむことにもなったと。
東雲:そうね。表現する人間としていろいろやりたいことが出てきたときに、「これはキノコホテルでやるものではないわ」といった具合に自分の中で線引きをしてしまうようになった時期があって。別に誰に言われたわけでもなく、全部自分で決めてやってきたはずなのに、「なんだろう、この窮屈な感じは?」と。GSや昭和歌謡以外のことをやっちゃいけないような圧をどこからともなく感じるようになってしまったの。結果、そこから脱却したくてしょうがなくなった。そう考えると、「キノコホテルはワンジャンルでやっているようなグループじゃないのよ」って証明するために存続してきた10年だったとも確かに言えるわね。
ーーより自由に、より柔軟に幅広い音楽性を提示していくことは楽しかったですか?
東雲:それは私自身の中の音楽遍歴をどんどん露出していく、言わば種明かし的な感覚でもあるんですよね。キノコホテルとしての音楽が広がったり新しくなったというよりは、「もっと教えてあげる♥」みたいな(笑)。それは純粋に楽しいことでもあるし、同時にそういうことを始めるとどんどん突き詰めたくもなってくるの。あれやりたい、これやりたいっていう欲求がさらに芽生えてくるようにもなるというか。私は元々、人前に立つことが好きだったわけでもないし、自分のことをクリエイトする、表現するタイプの人間だとはあまり思っていなかったので、そこはちょっと不思議なところもありますけどね。
ーー活動の中では幾度かのメンバーチェンジがありましたが、2012年にベースのジュリエッタ霧島さんが入社(加入)して現体制になって以降、アレンジや演奏面において格段に進化したところもありましたよね。
東雲:やはりベーシストの存在は自分の中ですごく大きくて。前のベーシストと比べてどうこうではなく、ある意味でまったく別の色、センスを持ったジュリエッタさんが入ってきたことで非常にやりやすくなったところはあったわね。彼女が存在していることでドラムのファビエンヌ(猪苗代)さんもうまく引っ張られ、お互いに作用し合ってる感覚がここ1年2年は強いかもしれない。その結果、アレンジにしても実演会 (ライブ)にしても、ある程度リズム隊にまかせることができるようになったりもしたので。そういう部分でも10年続けてきた意味を感じたりするところはありますね。
ーーサウンドにおいても、世界観においてもマリアンヌさんのクリエイティビティが炸裂しているバンドではありますけど、4人の化学反応があってこそですもんね。
東雲:そうね。以前はね、1から100まで私が決めた通りにならないと納得出来なくて、従業員(メンバー)を締め付けすぎたゆえに心が折れて退職(脱退)してしまった子がいたりとか、いろいろありましたけど、今はそんなこともなくって。今の従業員はみんな物分かりがいい子たちだから、ある程度プレイヤーとしての意志も尊重してあげたい気持ちはあります。そこは10年経て、自分も大人になったと感じている部分なんですけど(笑)。もちろんバンドは信頼関係なので、言うべきことははっきり言いますけどね。その辺のさじ加減、バランスが今はすごくいい感じなのではないかと。まぁでも、良くも悪くも特殊なグループだとは思いますけどね。
ーー確かにそうですよね。シーンを見渡しても唯一無二の存在だと思います。
東雲:今は若くてかわいいガールズバンドが多いですけど、そこと張り合ってもしょうがないでしょ(笑)。だから、キノコホテルはどこをどう切ってもキノコホテルでしかない、それで十分なんだと思うわ。
ーー他のガールズバンドが気になることはないですか?
東雲:いや、そもそもあんまりわからないですね。最近のバンドって名前を覚えるのが大変だし。きっとたくさんいるんだろうなぁって感じてるだけ。だからまったく意識はしてないわね。音楽の世界は新しいバンドがどんどん出てきて世代交代していくのが常だと思うけど、キノコホテルはそういうこととはあまり関係ないところに生息していて。メインストリームの激しい移り変わりを辺境から他人事のように眺めて、シニカルな笑みを浮かべてるくらいの立ち位置がお似合いだと思うんです。そういう場所にいるからこそここまで続けてこられたという部分はあると思いますし。じゃなきゃね、わけのわからない大人が介入してきて、勝手にプロデューサーだの何だの付けられて……即刻やめていたかも知れないわ。身売りみたいなマネができない性質ですので。