SKY-HIが“ファン運用Twitterアカウント”を立ち上げた理由「『物議を醸す』ことを大事にしたい」

SKY-HIの考える“情報の届け方”

 SKY-HIが、3月3日に「ファンの、ファンによる、ファンのためのTwitterアカウント」を開設した。同アカウントは、SKY-HIが告知用SNSアカウントのさらなる万全な運営を目指してオープンしたもので、メールマガジンを受け取ったファンが自発的にアカウントを管理するという前代未聞の試みがなされている(参考:「SKY-HI(日高光啓)オフィシャルブログ「SKY'sTHE LIMIT」Powered by Ameba」 ーファンの、ファンによる、ファンの為のツイッターアカウント始めました。)。今回リアルサウンドでは、全国ツアー中のSKY-HIを直撃し、アカウントを開設した経緯や彼の理想とするチーム作り、そして考えについて語ってもらった。(編集部)

「スタッフィングは運だけで済ませちゃいけない」

ーーまずはこの「ファンの、ファンによる、ファンのためのアカウント」をTwitterで開設した経緯について教えてください。

SKY-HI:Twitterをある程度日常的に使っている人たちは忘れがちなことなんですけど、世の中にはSNS耐性の一切ない人がいて。うちのマネージャーのキムラくんは、周りの友達も含めてTwitterをやっている人がいない人生を送ってきた、まさにその人だったんです。みんな当たり前みたいに「SNSは現場マネージャーがやるもの」という認識でいますが、それ自体SNS耐性がない人にとっては、車の免許がない人が運転手をやるみたいなものですし。とはいえ代わりにやってくれる人も出てこないので、変わらないまま続いていたんです。

ーー「SNS運用体制を変えなきゃ」というSKY-HIチームの課題がまずはあったと。

SKY-HI:SNSを見ていると、情報のキャッチが早くて、かつ拡散しているのはいつだってファンの方で。それを見ていて、ファンの方に情報を扱っていただくのがいいのかなと思ったんですが、代表者を選んで管理してもらうという方法だと、「抽選で〜」というのとは違うし、関係性的におかしくなってしまう。俺が子供のころにCDを買うとき、たくさんいるミュージシャンの中からどれかを選んでいたけど、ミュージシャンが俺を選ぶなんてことはなかったわけで。そんなことを考えていた新潟公演からの帰り道に、「Twitterを複数人で管理することは大丈夫なんだろうか? 規約的にはOKなのか?」と閃いたんです。しかも、固定の管理者を設けずに全てを平等にしたら、どうやって運営されていくんだろう? と楽しみになったし、規約の部分だけクリアできれば大丈夫だろうと。

ーー荒れる可能性についても、想定の範囲内でしたか?

SKY-HI:悪意が完全に入らないのは難しいだろうなと思いましたけど、普通に応援したいという人たちがそれを上回れば、Wikipediaみたいな運用のされ方になっていくんじゃないかという可能性もどこかで感じていました。その流れでRap Genius(シリコンバレー発のラップ歌詞解説サイト)みたいなサイトが立ち上がってくれても良いのになと期待していたり。

ーーユーザーによる「SNS上で動くCGM(Consumer Generated Media)」になる可能性を見たわけですね。自浄作用が働くだろうという期待もあったんですか。

SKY-HI:CGMというところでいうと、その管理者と書き込みをする人は同列ではないじゃないですか。でも、今回のケースだったら良い悪いが安易に決められないので、普通なら悪意と思われるようなことをする人も、IDとパスワードを持っているからにはそれを行使したにすぎないわけで。この考え方を「性善説」と言われたりもしますけど、それはアルバム(『OLIVE』)の内容に通ずるところでもあって、最終的には全ての人が相手を思いやる方向に着地するのが理想だし、その理想は一生諦めたくないと思っています。

ーーアルバムに込めたテーマの一つは「赦し」ですもんね。その延長線上にあることとするならば、確かに合点はいきます。こうやってお話しているのがアカウント開設の2日後なわけですが、ぱっと見た感じだとツイートが荒れていないように見えるものの、その裏では「よくない」と思った投稿を削除し続けているユーザーも現れ始めました。全員が平等の発信者でありながら、管理者になることでその中で優位に立ちたいという作用も働いているのかもしれませんが、今の所それはいい意味で作用しているのでは。

SKY-HI:まさにそうなんですよね。「荒れてる」と言われて見に行ったら整ってるという状態が何度もあって、FLYERS(SKY-HIファンの呼称)の中でも自警団として監視する方たちが活躍してくれている。本当は「荒らそう」と思って行動するほうが楽なのに、こうして各自が自分の投稿以外のことを見てくれているというのは、感謝とともに、手間をかけて申し訳ないなという気持ちもありますが。

ーー開設した次の日に「善意からくる乗っ取り」とSKY-HIさんが評した現象も起こりました。

SKY-HI:パスワードを変更してどうこうされるというのが、一番想定していた荒らされ方なんですよ。でも、まさかの最初にパスワードを変更した人が、俺にDMで直接新しいパスワードを送ってきてくれるという。原理主義者ってこんな感じなのかもしれないなあと(笑)。

ーーもうこのアカウント内だけで、一つの社会が形成されているわけですね。

SKY-HI:「世界がもし100人の村だったら」的な現象が起こらないかなと思ったんですけど、まさか1日で社会ができるとは(笑)。で、その「善意からくる乗っ取り」に関しては、俺がそこに介入しちゃうとバランスがおかしくなるので「パスワードを元に戻してあげてください」とお願いして、また運用が再開されました。最終的には、ファンの方だけでパスを管理して、俺はパスを知らない、くらいが理想だとも思いますが。

ーー今回のファン管理アカウントは、宝塚のファンクラブやmixi内のコミュニティ機能に近いのかなと感じました。宝塚の例を踏まえると、コミュニティやファンクラブを管理していくなかで、もしかしたらSKY-HIのスタッフとして登用されるケースもあるかもしれないと。

SKY-HI:俺が10年以上続けているラジオ番組『Act A Fool』の現ディレクターである山下さんは、元々FM Yokohamaにメールを送るハガキ職人だったんですよ。就職試験を受けることなんて古いとか言われてる昨今で、学校で学ぶことはたくさんあるんだろうけど、やっぱり社会で重要なのは、活かすも活かさないも、結局好きでやれるかどうかじゃないですか。在宅ワーカーも増えている世の中ですし、全国にいるそういう人たちも巻き込んで、ハガキ職人的なところからスタッフを見つけられたら面白いですよね。

ーーなるほど。一方でSKY-HIさんは、avexという国内メジャー大手のレコード会社に所属するアーティストでもあるわけですが、DJのYANATAKEさんやCAMPFIREの岡田一男さんなど、外部のスタッフも巻き込みながらチームを形成していますよね。今回のアカウント開設もそういった外部の方との取り組みの一環という考え方もできますか?

SKY-HI:これに関しては簡単な話で。僕は曲を作るときに、トラックメイカーの方に編曲をお願いすることが多いんですけど、それって「こういうドラムの音色を出させたら俺よりmabanuaの方が上手い」と判断してお任せしたり、「このホーンは打ち込みより生の方が良いな」と感じてFIRE HORNSへお願いするのと同じなんです。モノを作った時に「これはもっとこういう風になればいいのにな」と思ったけど、自分のチーム・会社にそんな人がいないのなら、外部の頼もしい方にオファーする。俺はavexの中で外部のコアスタッフが一番多いアーティストだと思うんですけど、それでも2〜3人ですから。もっと増やしたい。

ーーそんなSKY-HIさんが理想とするチーム作りは?

SKY-HI:今はメジャー・インディーが関係ないと言うけれど、僕自身はメジャーならではというインフラの強さを感じることも多くて。そこで思うのは、レーベルが各アーティストを子会社化できてないといけないんだなということです。海外のレーベルは概ねそういう運営方法をしているし、アーティストも目的に合わせたエージェントと度々契約するシステムですよね。だから俺は「スタッフィングは運だけで済ませちゃいけないな」と思うんです。

ーーアーティスト自身が子会社の社長として、スタッフを見つけていくようなイメージが良いと。

SKY-HI:そうですね。あと、マネージャーに関しては秋元康さんの言葉で共感できるものがあって。「売れてるアーティストはマネージャーを見るとわかる。一番近くで見ているマネージャーを惚れさせることができないアーティストに未来はない」というものなんですけど。これに関しては自分で自信が持てる部分で。ウチのキムラくんは、コミュニケーションスキルの高さと、俺が好きというのが伝わる空気感を持っているみたいで、彼が現場に行くと勝手に俺のアーティストランクが上がる(笑)。本当に良い関係性でやれていると思いますし、実際彼の才能はすごいと思います。

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