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元スパガ・八坂沙織は表現者としてどう進化した? ソロライブと近況から分析

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 女性アイドルが新たな別の道に進もうとするとき、何を思うのか。そしてグループから卒業する彼女たちを、我々ファンはどう送り出すべきなのだろうかーー。

「私のファンのみなさんは、私の夢を応援してくれる人ばかりなんです」

 それは先日のとあるラジオ番組での発言だった。グループからの卒業を決めた際、「ファンに対して、負い目を感じたりはしなかったか?」の問いに対しての答えである。ファンからすれば、それはごく当たり前の気持ちだろうし、特筆すべきことではないのかもしれない。ただ、演者自身がきっぱりそう公言してくれる、これほどファン冥利につきるものはないはずだ。

 その発言の主である女優・八坂沙織が2017年2月12日、新宿RUIDO K4にてソロライブ『八坂沙織音楽祭 ~SAORI'S MELODY4~』を開催した。“アイドル戦国時代”と呼ばれた激動期を駆け抜けたSUPER☆GiRLS・初代リーダーである。本格的にミュージカル女優を目指すことを決意し、2014年2月23日に卒業してから3年が経つ。

 卒業後、舞台に軸足を置きながら、音楽活動の場としてはじめた“サオメロ”の愛称で親しまれるこのイベントも4回目を迎える。幼少よりミュージカルに触れ、青春時代はロックを聴いてきた。そんな彼女の音楽嗜好を表すかのように、サオメロもピアノ伴奏によるクラシカルな音楽会にはじまり、前回はバンド編成でライブを行った。約1年ぶりとなる今回もバンドでのライブである。

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 歌劇『トゥーランドット』のアリアが荘厳に響く中、小悪魔風衣装をまとった八坂がバンドメンバーとともに登場、そのまま華々しくオープニング曲へなだれ込む……はずが、シーケンスが鳴らない。暗転したまま、沈黙が続く。フロアの観客もどう反応すべきかわからない。「つなごうか? ……今の時間は忘れて? もう一回やる?」バンドメンバーと観客に優しく口を開いた八坂の声が、場内の緊迫した空気を裂いた。この日、終始和やかでどこかアットホームな雰囲気に包まれていたのは、この一幕があったかもしれない。思わぬ機材トラブルに見舞われたが、MIZ(Vn.)の流麗なバイオリンのしらべに誘われ、今宵の宴は始まった。

 「オリジナル曲はないけど、八坂にしかできない時間」ーー本人がそう語るサオメロはカヴァー楽曲で構成される。アニメソング、アイドルポップス……、ノリの良い選曲で会場の熱を上げていく。声楽的であり、タカラジェンヌのようでもある八坂の歌声に掛かると、“一万二千年前の創聖”も、陽気な“赤羽橋ファンク”でさえも、気高く咲いて散る薔薇のような、強さと美しさが介在する誇り高きものに聴こえてくるから不思議だ。

「私のことを応援してくれる人は、もともとアイドル現場にいた人が多いじゃないですか。だから、みんな楽しめるものが良いなと思って、またバンドにしちゃいました!」

 嶋村ひかり(Dr.)、けん(Ba.)、Kyosuke(Gt.)、脇を固める男性メンバー陣。前回がそうであったように、八坂自身の人脈と人選によるものだ。こうしたイベントに多く見られる“ソロシンガーとバックバンド”といった構図はなく、気の知れた仲間同士が音楽を愉しむ、といった趣きである。反面で荒削りなところもあるのだが、それも一つのバンドらしくもあり、ボーカリスト&フロントマンとしての八坂の姿を浮き彫りにする。

 そして、ツインギター編成でロックテイストの強かった前回と毛色を変え、新たにバンドに迎え入れたのが、紅一点のバイオリニスト・MIZだ。河村隆一からBABYMETALまで、幅広く支えてきた彼女の奏でる旋律が、楽曲に新たな息吹をもたらす。クラシカルな室内楽の響き、フィドルの踊るような嘶き……、次々と表情を変えていくその音色は、どこか高貴な香りを漂わす八坂の歌声との相性も抜群。折り重なった2つのメロディがまばゆい音像を生み出し、その神々しい音の采配に場内は酔いしれた。

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 八坂の歌声には、どこか人を惹きつける力がある。今年1月に上演された舞台版『ロードス島戦記 灰色の魔女』では、演出家が彼女の歌に魅せられ、急遽出番を増やしたというエピソードもある。その歌唱スタイルは声量を押し通すわけでも、パワフルに歌い上げるわけでもない。いうなれば、己の周りの空気を震わせ、聴くもの見るものを巻き込んでいくかのような……、うかうかしていると持って行かれるのだ。演技における台詞まわしもそうだ。声を張っているようには見受けられないのに、観る者の耳に明瞭に届く。自分の声の鳴らし方を熟知しているのだろう。突き抜ける中高域は天鵞絨のようになめらかで、伸びやかに響く中低域はときに魔性な妖しさをも嗅ぐわす。そして、甘美なストレスにすら例えられる鳴り止まないビブラートーー彼女から発せられる蠢めくような色彩の飽和は異常だ。 

     
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