欅坂46「二人セゾン」は総合芸術だ! デビューイヤーで彼女たちが起こした奇跡

「二人セゾン」を表現する振付

 また、欅坂46といえば、振り付けの面白さを忘れてはいけない。バレエ、モダン、コンテンポラリーといったジャンルが組み合わされた今回の振り付けは、跳ねること、伸ばすこと、回ることで彼女たちの美しさを最大限に引き出している。衣装にしても、ターンすると美しく広がるスカート、突然表われハッとさせられるスカートの裏地に忍ばせた赤。衣装それ自体の完成度ももちろんのことながら、ダンスを引き立てるその細かい仕掛けの数々は本当に見事だ。

 そして、この曲のハイライトの一つと言えるのが、ブリッジにてソロで平手友梨奈が踊るシーンだ。アイドルは皆が同じダンスを踊り、それをキレイに揃えることが一つの美徳とされている。一糸乱れぬダンスは複数人で構成されたアイドルグループにとっては一つの理想形であるが、デビュー曲から振付を担当するTAKAHIROは「サイレントマジョリティー」からあえてそれをしていない。もちろん揃えるところはきちんと揃え美しく見せているのだが、揃えて踊るメンバーたちに対してより目立つような、ときにそれに抗うような振りを付けている。「サイレントマジョリティー」や「二人セゾン」の平手しかり、「手を繋いで帰ろうか」の菅井友香と守屋茜しかり、あえて全体と違う振りを付ける人間を作ることで、物語をより広く深く表現することを可能にしている。TAKAHIROの振付は、曲の物語をダンスや表情で可視化してくれる。彼から曲の物語を受け取り表現するスタイルが平手を始めとするメンバーにハマっているのは、先日行われたワンマンライブからも感じとることができた。

ダイヤの原石はそれ自体だけでは輝かない

 ダイヤの原石はそのままでは真の輝きを放つことはできない。カットしたり、磨いたり、光を当てたりすることで、持っている輝きが最大限に引き出される。欅坂46はまさに同じで、彼女たちを見つけ、育て、最高の楽曲、詞、映像、振付、衣装を与えることで真の輝きを放つ。「二人セゾン」はそれぞれがギュッと詰まった総合芸術なのだ。彼女たちが本来もつ魅力もさることながら、ダイヤを扱うプロフェッショナルに恵まれているからこそ、今年の音楽シーンで一番の輝きを放つことができているのだ。

 それは、先日の有明コロシアムでのワンマンライブからも感じることが出来た。PA、照明、電飾、レーザー、特効、大道具・美術、そして目には見ていないライブスタッフの気合と細かいプロの技で、彼女たちは最高の輝きを放っていた。1曲目の「大人は信じてくれない」が始まって、すでに見ているものの圧倒的なスケールに恐れすら感じ、これから見せられるステージへの期待感に著者は唸ってしまった。

変えることを厭わない強さ

 とはいえ、忘れてはいけないのは彼女たち自身の成長の早さだ。プロフェッショナルたちにただ照らされるだけでなく、1stシングルから今回の3rdシングルまでを駆け抜ける中で、一人一人が急激な成長を遂げている。今作では、選抜メンバーの配置が大きく変わった。メンバーは2ndシングルと同じ21名だが、フロント7名中4名が1st、2ndで3列目を務めていたメンバーの抜擢だった。センターの両サイドに立つ小池美波と原田葵はMV中も元気な笑顔が映える現役高校生の二人。そして佐藤詩織と齋藤冬優花はグループのなかでも熱いハートの持ち主。彼女たちが3列目からフロントに立つことで、欅坂46の新たな一面を引き出すと共に、彼女たちの意識の向上とレベルアップにつながった。

 3作連続でセンターを張る平手友梨奈は、初めてフロントに立つメンバーが多い中で、自分が不安を表してはいけないと、最年少センターという大きな重圧のなかでも周りを気にすることができるようになった。音楽が始めれば、圧倒的なパフォーマンスを見せる彼女だが、取材などで口を開けば自分以外にも素晴らしいメンバーがいることを常に主張している。

 改めて3作のフォーメーションを見渡してみると、全作でフロントに立っているのが平手だけだと気付く。お人形のような渡辺梨加も、歌姫今泉佑唯も、小さい身体でバキバキのダンスを踊る鈴本美愉も、3度はフロントに立てていない。メンバーの層の厚さはもちろんだが、それを積極的に入れ替え試し、ファンへ新たな発見を促すと共にメンバーの成長につなげるという方針が功を奏しているように思う。しかもそのスピードがとても早いのが欅坂46の特長だ。とてつもない早さで挑戦すること、変えることができるのは、乃木坂46のときよりも結成からデビューまでに時間をかけしっかりと作り上げた幹の部分があるからに他ならない。

 デビューイヤーでの紅白を終え、2017年彼女たちはどこへ行くのか。「サイレントマジョリティー」は間違いなく2016年の”ヒット曲”といえるだろうし、初の主演ドラマ『徳山大五郎を誰が殺したか?』(テレビ東京系)も、好評のうちに終えている。急速なスピードでこの1年を駆け抜け、過去に先輩アイドルたちが乗り越えてきたことの多くを経験した彼女たち。彼女たちの見据える先は、登る坂道は別だとしても、先輩乃木坂46と同じく“アイドルのその先”なのかもしれない。

■ポップス
平成生まれ、音楽業界勤務。Nogizaka Journalにて『乃木坂をよむ!』を寄稿。

※記事初出時、一部情報に誤りがありました。訂正してお詫びいたします。

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