布袋寅泰が世界に立ち向かい続ける理由ーー35周年ツアーで見せた洋楽ルーツと意地

布袋寅泰の意地とルーツへの敬意

 いったい何回、足を上げただろう? ギターを弾きながら右足だけで立ち、リズムにあわせて左の膝を上げ、あるいは足全体で蹴り上げるあのステップを、彼は何度も繰り返した。「布袋寅泰 35th ANNIVERSARY『8BEATのシルエット』2016 【BEAT7】 Maximum Emotion Tour 〜The Best for the Future〜」を締めくくる東京公演の1日目、11月30日のNHKホールで見た光景である。布袋が「足上げステップ」を披露するのはいつものことだけれど、デビュー35周年を記念するツアーだけあって、普段とは違うお祭りムードがあった。今、こうして元気に活動できていることに関し、彼が「サンキュー、俺の股関節」とにこやかに軽口をいう場面もあった。

 「POISON」でスタートしたライブは、前半からBOØWYの「NO.NEW YORK」、COMPLEXの「BE MY BABY」が演奏され、会場はあっという間に沸点に達した。布袋は今年、これまでの歩みを総括する3枚組ベスト『51 Emotions -the best for the future-』をリリースしており、このツアーも全キャリアから代表曲をピックアップした選曲になっていた。また、MCでは、ヒムロックこと氷室京介、吉川晃司とそれぞれバンドを組んだこと、そしてデヴィッド・ボウイ、ザ・ローリング・ストーンズとの共演など、様々なアーティストとの出会いが自分の音楽活動を支えてきたことを、穏やかな口調で振り返った。

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 今回のツアー・タイトルには【BEAT7】とあるが、これは35周年のプロジェクトとして【BEAT1】から【BEAT8】まで、それぞれ性格の異なるライブのスケジュールが組まれたからだ。【BEAT1】のライブハウス・ツアーに始まり、【BEAT2】のソロデビュー再現GIGS、【BEAT3】のフリー・ライブ、【BEAT4】の被災地復興活動の一環である東北ツアー、【BEAT5】のアメリカ公演、【BEAT6】のフェス出演、そして【BEAT7】のベスト選曲ツアーの後には、クライマックスの【BEAT8】として武道館がファイナルとなる3公演が控えている。

 一連のプロジェクトによって、布袋のアーティストとしてのキャリアを振り返るとともに、現在の彼の姿勢を示すというわけだ。布袋が、【BEAT1】から【BEAT8】までの通しタイトルを「8BEATのシルエット」としたのは、自身の音楽の原点が8ビートのロックンロールにあることを再確認する意味をこめたからだろう。1981年にBOØWYの一員としてデビューした布袋寅泰のギタリストとしての特徴は、長々としたソロ演奏で自己主張するのではなく、リフ主体のビートの効いたコンパクトな楽曲に印象的なフレーズを盛り込むことだった。彼の基本姿勢は、ソロになってからも基本的には一貫している。

 メロディとリズムのバランスを意識して、曲ごとにふさわしい演奏を選ぶ。そのようなトータルな感覚を持つギタリストだからこそ、ロックのフィールドだけでなく、1990年代には今井美樹、近年ではももいろクローバーZや嵐など、Jポップへの楽曲提供やプロデュースでも活躍できたのだ。

 11月30日のNHKホールでは、布袋のキャリアにおける各時代のポップでシャープなロックンロールの数々を聴くことができた。そこで布袋とともに強靭なリズムを生み出していたのが、ザ・ルースターズのベーシストである井上富雄、デヴィッド・ボウイのバンドのドラマーだったザッカリー・アルフォードである。

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 BOØWYもザ・ルースターズも1980年代に活躍したバンドであり、布袋は井上に戦友のような意識を持っている。米英からの輸入文化として始まったロックを、日本でポピュラーなものにしたいという共通の意識が、二人を結びつけていたといえる。

 一方、今年1月に亡くなったデヴィッド・ボウイが1996年に来日公演を行った際、布袋寅泰はオープニング・アクトに起用され、1曲だが共演が実現した。その時のドラマーがアルフォードである。2003年のアメリカ映画『キル・ビル』に「Battle Without Honor Or Humanity」が使用されて以来、布袋の名は国外でも知られることになった。2012年に彼はイギリスのロンドンへ移住し、海外進出に本腰を入れ始めた。海外への思いを膨らませるうえで、ボウイとの共演は大きなきっかけになったように見える。

 【BEAT7】のライブは、「SURRENDER」、「Dreamin’」、「SCORPIO RISING」など代表曲の数々を披露した後、「スリル」で本編を終えた。演奏曲のなかには「C’MON EVERYBODY」も含まれていた。布袋は、エディ・コクランが1958年に発表したロックンロールのこの古典的名曲を、以前から歌い続けている。それは自分の音楽のルーツに対する敬意だろうし、敬意があるからこそロックの本場である海外で勝負したいと考えるのだ。

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