相対性理論が過去のパブリックイメージを刷新! サウンドの新モードを読み解く

 2010年代に入ったあたりから、音楽的に相対性理論の影響下にあると思われるバンドやシンガー・ソングライターが次々に登場するようになった印象がある。また、2011年に亡くなったポエトリー・ラッパーの不可思議/wonderboyが相対性理論の「バーモント・キッス」に乗せてラップした「世界征服やめた」を発表したり、SIMI LABのOMSBのソロにも参加している野崎りこんが、相対性理論 の歌詞の一節をラップに織り込んだりもしている。最近では、ラブリーサマーちゃんがシングル「LOVE▽でしょ?(Pro. by 無敵DEAD SNAKE)」のジャケットで、相対性理論の『シフォン主義』を模したことも記憶に新しい。彼らの後続への影響力の大きさは明白と言えるだろう。そんな状況にあってリリースされる新作『天声ジングル』は、フォロワーを生み出した過去のパブリックイメージを刷新し、新たなフェイズへ足を踏み入れている。

 まず注目したいのが、バンドとしての結束感と一体感。2012年に加入した吉田匡(ベース)、山口元輝(ドラム)、itoken(キーボード)を含む編成によるアンサンブルが成熟し、いよいよひとつの完成形を見たのではないか、という気がする。そもそも、吉田や山口やitokenはやくしまるえつこのソロ作でも演奏に参加しており、曲によっては山口は共同編曲者としてクレジットされている。バンドを離れてもなお、やくしまるが彼らを信頼に足るプレイヤーとして起用してきたことは、このメンバーの代替不可能性を示している。しかも、ジェフ・ミルズとコラボレーションしたシングル「スペクトル」を除き、相対性理論はゲスト・ミュージシャンを迎えることがない。『正しい相対性理論』のように他者にリコンストラクトを委ねる一方で、実はバンド内での化学反応を強く信じているのではないかと思わされるのだ。

 また、前作『TOWN AGE』はシンガー・ソングライター的な曲も収められていたが、『天声ジングル』はバンド・サウンドの強靭さが前面で主張している。特にリズム隊の醸し出す骨太なグルーヴは特筆ものだ。自在なランニングと分厚い低音が特徴の吉田匡のベース、楽曲を立体的に見せることに長けた山口元輝のドラムが、アルバムに深みと奥行きをもたらしている。

 特に山口のブレイクビーツのニュアンスを含んだグルーヴ感は過去のメンバーにはなかったもので、初期のトレードマークだったディスコ的意匠を更新することに成功している。思えば、筆者がはじめて山口のドラムを見たのもShing02のバンドで叩いていた時だったし、ヒップホップ調の「FLASHBACK」でのプレイはさすがに見事なハマり具合だ。更に、山口は11曲中5曲でティカ・α(やくしまるが作詞/作曲を行う際の名義)と共同で作曲者としてクレジットされている。おそらくリズム面での設計や構築に尽力したのだろうが、その貢献度の高さは明白である。

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