SUPER BEAVERがライブバンドとして返り咲くまでーー結成10年の歩みを高橋美穂が振り返る

 結成10周年を迎えたアニヴァーサリーイヤーを、3ヶ月連続シングルリリースと、Zepp Diver Cityでのワンマンライブで締め括ったSUPER BEAVER。彼らの歩みを振り返ると、そして出会った当時の彼らを思い出すと、感慨深くならずにはいられない。初めて彼らをインタビューしたのは、初めての音源だった1stミニアルバム『日常』の時。コンテストでの受賞を引っ提げて、ライブハウスで話題と才能を振りまいていた彼らは、まだ10代のメンバーもいて、キラキラした野望を語ってくれたことを覚えている。そして、それが夢物語とは思えないくらい、当時から、お茶の間まで届きそうなソングライティングのスキルを宿していた。ロックと言うよりポップなフィールドで突き進んでいくバンドなんだろうな、と思っていた。

 実際に彼らは間もなく、2009年にシングル『深呼吸』でメジャーデビューを果たす。近年に珍しいほど、着実に階段をのぼっていくバンドになるだろう、そう思っていたのだが……メジャーデビューしてからリリースされた楽曲が、何だか窮屈そうに聴こえたり、インタビューで4人と顔を合わせると、どことなくヒリヒリした空気を感じるようになった。それから暫く会わない日々が続いたが、鬼のようにライブをやっているという情報は伝わってきていた。正直言って、ライブバンドというよりは楽曲第一のバンドというイメージだったので、何が彼らに起きているんだろう?と思いながら見守っていたのだが、その答えが届いたのが2012年。柳沢亮太(G)から、自主レーベルIxLxP RECORDSを立ち上げたという連絡と、アルバム『未来の始めかた』が送られてきたのだ。ビーバーが自主レーベル!? 正直言って、かなり驚いた。出会った時の若々しさと、着実に階段をのぼっていくという勝手なイメージから、彼らがインディペンデントな活動をしていくとはゆめゆめ思えなかったからである。

 そこで、さっそく柳沢自身にコンタクトをとって、インタビューさせてもらった。渋谷龍太(Vo)と柳沢と私、三人で渋谷のルノアールに集合。大人が全く介在しない中で(まあ3人自身も大人だけれど)、渋谷と柳沢が赤裸々な思いを語ってくれた。メジャーの世界においてだんだん疑問が増えていったことや、ストレスで渋谷の胃に穴が開いたこと、脱退の危機、そしてライブに次ぐライブでバンドを鍛え、4人の絆を固めていったこと……。いつの間にか、彼らはとてもタフなバンドに生まれ変わっていた。才能は確かなのに、あれよあれよと持ち上げられてデビューし、才能を使い捨てされてハイ終わり、みたいな昔のバンドブームと同じ轍を、彼らは踏むことはなかった。これはきっと、インディペンデントのスタイルが確立された2000年代に彼らが音楽を聴き育ったところもあるだろうし、何よりも彼ら自身がハンパな気持ちでバンドや音楽に向き合っていたわけではないことが大きいだろう。

 元々“日常”を歌い鳴らしてきた彼らだけに、よりリスナーに密接したインディペンデントなスタイルは合っていたのかもしれない。曲はどんどんと精度を上げていき、ライブは説得力を増していった。2014年には信頼出来る仲間を得て、eggman内に発足した新ロックレーベル[NOiD]よりフルアルバム『361°』をリリース。そのあたりから、「ビーバーのライブは熱い!」という声が、今まで聞こえなかったような場所から届くようになった。メジャーで思ったような力が発揮できずに、インディーズで返り咲く。この道のりで私が思い出すバンドは、dustboxである。まさか、フィールドが全く異なるように見えるビーバーが、近しい道のりを進んで行くとは思わなかった。そして、どちらもずっと好きでいて良かったな、としみじみ嬉しくなってしまう。

 今や、すっかりビーバーはライブバンドだ。それを象徴するように、3か月連続シングルの全てのカップリングには、ライブ音源が収録されている。表題曲も、丸裸な言葉が詰まった、その名も「ことば」、棘も痛みも剥き出しにした、アグレッシヴな「うるさい」。どちらも、ライブで映えることは間違いないキラーチューンだ。そして、締め括りにリリースされた「青い春」。この曲は、特に私の耳を惹き付けた。何故なら……どえらくポップだったからだ。ライブバンドの熱さだけではなく、嘗ての彼らの、お茶の間にも届きそうなソングライティングのスキルがどっぷりと注入され、しかも季節もの。この曲を聴いて、ああ、彼らは、本当に自信が付いたのだな、そう心底思った。気張ってライブバンドらしい曲にしなくとも、素直に今の自分たちのやりたいことをやれるようになったのだな、と。

 だからこそ、これがはじまりなのかもしれない。11年目のビーバー、期待しかしていない。酸いも甘いも噛み分けて、汗水たらして日常を生きてきた今だからこそ見せられるライブ、聴かせられるポップソング。本当に彼らのキラキラした野望が叶うのは、きっとこれからだ。

■高橋美穂
仙台市出身のライター。㈱ロッキング・オンにて、ロッキング・オン・ジャパンやロック・イン・ジャパン・フェスティバルに携わった後、独立。音楽誌、音楽サイトを中心に、ライヴハウス育ちのアンテナを生かしてバンドを追い掛け続けている。一児の母。

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