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角松敏生が35年前のデビュー作を“リニューアル”した理由は? 『SEA BREEZE 2016』を検証

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栗本 斉
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 いろんなアーティストにインタビューしていると、結構な確率で「満足していない」とか「レコーディングし直したい」という声を聞くことがあります。確かに、いったん記録したものは簡単に覆すことはできないでしょうし、キャリアを重ねれば重ねるほど過去の自分をアップデートしたいと思う気持ちはよくわかります。だから、セルフリメイクしたがるのも無理はないでしょう。しかし、オリジナルの良さというものは、何をやっても超えられないというのが通説。リメイクやリミックスでオリジナルを超えたという事例は、ほとんど聞いたことがありません。

 さて、そんなことなどどこ吹く風とばかりに、今回果敢に過去作品に向き合ったのが角松敏生。日本のポップ・シーンを代表するアーティストであり、元祖シティポップスのひとりです。キリンジや土岐麻子、paris matchといったところから、昨今のネオ・シティポップといわれるcero、Shiggy Jr.、Awesome City Club、シンリズムといったアーティストたちは、間接的にかもしれませんが彼の影響を少なからず受けているのは間違いありません。そんな角松がデビューしたのは、1981年のこと。『SEA BREEZE』というシティ・ポップの名盤を発表して世に出るのですが、レコーディングした当時はまだ大学生であり、アマチュア同然の存在。当然、レコーディングも本意ではないことが多く、自身では納得していない作品だったようです。それを、35年の時を経てリニューアルしたのが、新作『SEA BREEZE 2016』というわけです。

 通常、こういったアニバーサリー企画で多いのは、いわゆるリメイクです。歌も演奏も今現在のスタイルで録音し直すわけですが、うまくなった分、当時の“味”のようなものが失われることが多いのが特徴です。もうひとつよくあるのは、リミックス。オリジナル・トラックのリズムを強調したり音を加えたりして今風に仕上げるのですが、今度はもともとの“空気感”が損なわれることもしばしば。いずれも慎重にやらないと、オリジナル至上主義のファンから総スカンを食らうこともめずらしくありません。しかし、角松はその両方の手法を巧妙に組み合わせ、この難題にトライしました。

 彼が行ったのは、オリジナルのマルチテープをデジタルでアーカイブし、オリジナルの雰囲気を壊さないように再構築。当時のミュージシャンによる才気ほとばしる演奏を最大限に活かし、原曲のアレンジを尊重しながら、ミックスし直しているのです。これも、錚々たる参加ミュージシャンたちに歴史的価値があるからこそ。村上“ポンタ”秀一、後藤次利、清水信之、佐藤準、鈴木茂、ジェイク・H・コンセプション、パラシュートのメンバーなどなど、この頃のシティポップスが好きな方なら誰もが知っている凄腕ばかり。当然のことながら、演奏をリテイクする必要は一切ない極上のバックトラックなのです。アレンジなどで一部手を加えたりしていますが、トリッキーなことは一切行わず、それとは気づかない程度により良く仕上げる技も絶妙です。

     
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