ベッド・インの「おギグ」はなぜ感動を呼ぶのか 宗像明将がパフォーマンスを徹底分析

ベッド・イン、2ndワンマンの感動

 ベッド・インが2016年1月17日に渋谷WWWで開催したセカンド・ワンマンライブ「ボディコン反逆ナイト~バブルって117(いいナ▼)の日」は、終演後に「いいバンドのライブを見た」という感慨と、下ネタ満載のユーモアに溢れたステージへの笑いの両方が残るような「おギグ」だった。

 「地下セクシーアイドル」と銘打っているベッド・インだが、最近ではテレビでの活躍も目覚ましく、もはや「地下」と呼ぶのは憚られる存在だ。そして、この日のチケットはソールド・アウトで、当日券も出ないという人気ぶりだった。

 開場前に渋谷WWWを取り囲む人の群れを眺めていると、客層はまさに老若男女。若いカップルもいれば、バブル体験組もいるだろうという客層で、それだけを見たら誰のライブかわからないような状態だった(実際に私は通りがかりの人に誰のライブかを聞かれた)。そして、幅広い客層を見ていると「ベッド・インが大ブレイクする日も遠くないのでは」と感じてしまった。開場前に。

 開演前にはお色気に満ちた声で諸注意が。「ねるとん会場のようにモーションをぶっかけあっていただきたいのですが本番行為はNGとさせていただきます」とアナウンスされると、フロアから「えーっ!?」と声が上がった。いや、何への「えーっ!?」なんだよ……。しかし、「オカズ写真は撮り放題」「終演後にはメンバーとの『おはさみチェキ』があります」とアナウンスされると大歓声が上がっていた。

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 そして、会場をキツキツに埋める性徒諸クン(ベッド・インのファンの総称)が、何かを連想させると評判の岩下の新生姜ペンライトやジュリ扇を振る中、いよいよ開演。

 この日のライブは、ほぼ全編が「ベッド・イン with パートタイムラバーズ」によるステージだった。つまり、ベッド・インの中尊寺まいと益子寺かおりに、ギターのポリネシアン・キヨII世、ベースのアダムタッチ高橋、ドラムのスローセックス石島、キーボードの舐める派JAPANを加えたバンド編成だ。

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 ベッド・イン with パートタイムラバーズによるハードにしてしなやかな演奏は、この日のライブのサウンドを特徴づけていた。そもそも、ベッド・インを私が初めて知ったとき、中尊寺まいは「例のK」のギター、益子寺かおりは「妖精達」のヴォーカルという認識だった。「90年代バブル期のオイニーを撒き散らす」というコンセプトのベッド・インは、女性が舐められがちなバンドシーンへのアンチテーゼでもあり、確信犯的なものであることはインタビューでも語られてきた。そこにはフェミニズム的な要素もある。

 パートタイムラバーズを従えたセカンド・ワンマンライブでは、益子寺かおりのヴォーカルも中尊寺まいのギターも冒頭から絶好調。それは、ともすればイロモノと見られがちなベッド・インというグループのミュージシャンとしての実力を見る者に体感させるのに充分なものだった。

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 コーナー転換のために何度か「中折れタイム」があったが、そこでモーターヘッドの「Killed By Death」が流され、2015年12月28日にこの世を去ったレミー・キルミスターを追悼していたのも、ベッド・インだからこそだ。

 そうしたバンド畑出身ゆえに、バブル時代のダンスミュージックとの距離にかつてのベッド・インは苦悩したことだろう。しかし、1曲目の「♂×♀×ポーカーゲーム」は、agehaspringsによる楽曲の監修、益子寺かおりの作詞によって、1990年代ダンスミュージックとバンドサウンドと歌謡曲がミクスチャーされた到達点だ。会場にはVJ・ムラカミマサヒロによるレーザー演出も飛び交い、行ったこともないヴェルファーレや「NAONのYAON」を思い浮かべたほどである。

ベッド・イン "♂×♀×ポーカーゲーム" (Official Music Video)

 中盤で、イジリー岡田の映像による曲紹介から始まった「C調び~なす!」も、agehaspringsによる楽曲の監修、中尊寺まいの作詞による歌謡曲とバンドサウンドの融合点だ。6人のボディコン・ダンサー「ベッドメイキングガールズ」(よく見るとひとりはジーニアスの朝日太一だった)がお立ち台で踊る光景のカタルシスには感動すら覚えてしまった。

ベッド・イン "C調び~なす!" (Official Music Video)

 この日もうひとつ感心してしまったのは選曲のセンスだ。バンド編成でカヴァーした楽曲を挙げると、中原めいこ「鏡の中のアクトレス」、工藤静香「嵐の素顔」、Mi-Ke「朝まで踊ろう」、荻野目洋子「ダンシング・ヒーロー」、バービーボーイズ「暗闇でDANCE」、Action!「Action! 100,000VOLT」、アン・ルイス「あゝ無情」、PERSONZ「Dear Friends」、SHOW-YA「私は嵐」、SHOW-YA「限界LOVERS」、久宝留理子「男」という具合だ。結成当初よりバンド編成の楽曲やBGMは中尊寺まいの選曲だという。

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 さらに中尊寺まいによる平成おんな組「ビバ!結婚!」、益子寺かおりによる藤波辰巳(現・藤波辰爾)「マッチョ・ドラゴン」、パートタイムラバーズによる男闘呼組「DAYBREAK」も。さらに、ヒョウ柄のボディコンで女装したKenKenのベースをバックに、ピンク・レディー「UFO」もカヴァーしていた。

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 中折れタイムで、畑中葉子とビートたけしの「丸の内ストーリー」が流されたのにも驚いた。ベッド・インの選曲センスは、まるでアナログ盤をdigるDJのようだ。考えてみれば、1990年代の渋谷系が1970年代の音楽を参照していたように、2010年代のベッド・インが1990年代の音楽を独自の視点で参照するのは何の不思議もないのである。1990年代をリアルタイムで過ごしていると気づきにくいが、20年もあれば充分な「過去」なのだ。

 益子寺かおりが「『じれったい』『熱視線』待ってるからね」中尊寺まいが「『真夜中すぎの恋』しようね」と言った後に「今のは安全地帯ね」とネタを説明していたように、彼女たちの選曲もどこまで性徒諸クンに理解されているのかはわからない。しかし、どんな選曲をしても自分たちの磁場に引き寄せてしまうのもベッド・インの力量なのだ。

 もちろん、「ちゃんまいー!」「かおりー!」という男性ファンの野獣のような咆哮にベッド・インが喘ぎ声で返したり、中尊寺まいがで露出度の高い体操着で縄跳びをしたり、益子寺かおりが藤波辰爾に扮して前髪を切ったりと、彼女たちの圧倒的なユーモアも見逃すことができない。それは大衆性に直結する。

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 アンコールでは「アンコール」の一文字だけを変えて、ここに書けない単語が性徒諸クンによって叫ばれていた。アンコールではPERSONZの「Dear Friends」をアコーステック編成でカヴァーした後、中尊寺まいが泣き真似をして、益子寺かおりが「湿っぽいのは下半身で充分だよ!」と言う茶番も。2回目のアンコールでは「スーパージョッキー」風の生着替えタイムがあり、「これがないと始まらないよね~!」と言っていたので「もうライブが終わるだろ……」と心の中で突っ込んでしまった。彼女たちの思う壺である。

 最後の最後は、益子寺かおりが「またベッド・インしようね~!」、中尊寺まいが「しば漬け食べたい~!」と言いながらステージを去ってライブは終了。後者がフジッコ・漬物百選のCMのネタだとどのぐらいの人が理解できるのだろうか……。

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 それはともかく、この日のライブを見て真に感動したことがあった。現在のベッド・インの勢いなら「タレント売り」も可能だろう。その方向性なら別に音楽をやらなくてもいいだろうし、ましてやバンドにこだわる必要もない。しかし、ベッド・インはバンド畑という自分たちのルーツを譲ろうとしない。そこを貫きつつ、WWWを満員にしたことには敬服した。

 ベッド・インに残された課題は、近作の路線でオリジナル楽曲を増やすことだけだろう。ベッド・インがいる限り、私たちの心の中の「ギルガメッシュないと」はまだ終わることがないのだ。

※▼の正式表記はハートマーク。

(写真=弓削ヒズミ)

■宗像明将
1972年生まれ。「MUSIC MAGAZINE」「レコード・コレクターズ」などで、はっぴいえんど以降の日本のロックやポップス、ビーチ・ボーイズの流れをくむ欧米のロックやポップス、ワールドミュージックや民俗音楽について執筆する音楽評論家。近年は時流に押され、趣味の範囲にしておきたかったアイドルに関しての原稿執筆も多い。Twitter

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