世界の定額制音楽配信は今どうなっている?  ジェイ・コウガミが分析する各サービスの現状と今後

 2015年の音楽業界は、定額制音楽配信が世界的にメインストリームの階段を駆け上った分岐点となる年だった。多くのアーティストやレーベルそして日本人を含む世界中の音楽ファンは、デジタル音楽ダウンロードが始まって以降、最も大きな影響を受けることとなった定額制音楽配信は、もはや無視できない新潮流と言える。今、音楽ビジネスはかつてないほど激変し新しい時代を迎え始めている。その中心にある定額制音楽配信をめぐる昨年の動きを振り返り、デジタル音楽の現在地を探りたい。

Apple Music抜きに2015年の定額制音楽配信は語れない

 定額制音楽配信で最も大きな動きは、「Apple Music」の開始だった。これまで世界最大の音楽ストア「iTunesストア」を誇ってきたアップルが定額制音楽配信を始めたことは、iPhoneやMacユーザーの音楽の聴き方を変える画期的なアプローチとなった。世界100カ国以上で始まったApple Musicは日本でも邦楽カタログを多く揃えている。

 アップル独自の強みの一つは、世界的なアーティストとの協力体制がある点だ。これまでもドクター・ドレ―やドレイク、ファレル・ウィリアムス、エミネムなど、大物アーティストたちが、Apple Musicを使った先行配信を行い、アップルのコンテンツ独占戦略で話題と期待値を高めることに成功している。

 何と言っても定額制音楽配信に反対してきたテイラー・スウィフトの楽曲を解禁させたことも、ネットで話題をさらい音楽業界に驚きを与えた。

 ロイヤリティ分配の低さを理由にこれまでSpotifyから楽曲を削除する強行的な態度を示してきたテイラー・スウィフトは、アップルに対しても無料トライアル期間中にロイヤリティが支払われないことを指摘する公開書簡をTumblrで公開する。すると即座にアップル経営者が規定を覆す決断を発表。その一週間後にアルバム「1989」がApple Musicで配信されることが発表された一連の動きは、アップルの音楽業界とのつながりの強さを示しただけでなく、定額制音楽配信とアーティストのロイヤリティが、今後解決しなければならない重要課題であることを浮き彫りにした。

 Apple Musicは、定額制音楽配信の概念を変える進化系サービスと言える。それは、無料で聴ける24時間ラジオステーション「Beats 1」や、アーティスト専用の音楽SNS「Connect」、音楽のプロがセレクトするキュレーションなど、あらゆる楽しみ方を一つにデザインするアップルらしいアプローチがあるからだ。ヘッドフォンブランド「Beats by Dre」を立ち上げた1人でApple Musicの開発に関わった音楽プロデューサーのジミー・アイオヴィンが「分裂して混乱状態」と述べた今の音楽業界を救うために生まれたApple Music。これまで音楽を聴き放題することだけに焦点があてられてきた音楽サービスに、ラジオやソーシャル、動画、キュレーションなど新しい次元のアプローチを提案している。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「音楽シーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる