MURO×渡辺宙明が語る、ヒップホップと特撮・アニメ音楽の共通点「どの作品も実験的」

MURO×渡辺宙明、特撮アニメ音楽対談

「まだチャンスもあると思いますから、さらに印象的なものを作りたい」(渡辺)

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ーーM20.「暁光のもとに」は、先述の『スパイダーマン』からです。

 巨大な敵に立ち向かうスパイダーマンの怒り。ジャングル的なバスタムの乱打に始まって、さまざまな打楽器の音が重なり、大きな怒りを盛りあげます。その打楽器に、さらにジャズフルートのアドリブが重なりますが、ここがききどころです。(渡辺宙明氏によるレコード掲載レビューより)

MURO:聴きどころに関しても、しっかり解説をされています。

渡辺:BGMのレコードは、子供はあまり買わないと思ってましたから。その頃から20歳くらいのファンも私のうち(マンション)によく遊びにきてましたし。僕のファンの中には、好きなジャンルの幅の広い人たちがいて、クラシックから他のポップスまで幅広く知っているような人がいますね。だけど、最初の頃に遊びに来たような人たちは特撮アニメファンで。「ヤマト」のブームもあったから「ヤマト」のファンまでうちに遊びに来たりして(笑)。そういうこともありましたね。

ーーM21.「スパイダーマンのテーマ」もレビューが素晴らしいです。

 ティンパニーの重々しい音が、地球侵略の悪だくみを表現し、不気味な音がうねっていきます。ヒューンという音は、ティンパニーの上に仏壇で使う鉦(鉢型の鉦)をのせ、ティンパニーのピッチを上下させるという珍しい奏法を使っています。また、コンコンコンという音は、スモール・ゴングという東南アジアの打楽器で、いっそう不気味さを強調しています。(渡辺宙明氏によるレコード掲載レビューより)

MURO:『スパイダーマン』のメインテーマですよね。これはリアルタイムでテレビで観ていたので、すごく覚えていますね。音も絵も。

渡辺:このときは録音が大変で、コロムビアの1スタと2スタを使って、大きな楽器は2スタのほうに置いといて、それ以外は1スタの広いところで演奏するという感じでした。狭いスタジオといってもある程度の広さはあるんですけど、ティンパニーを2台置いて、マリンバとヴァイブ(ヴィブラフォン)と、ドラなどを置いたら、それでいっぱいになっちゃうんです。このころからマルチ・トラック・レコーディングでしたが、ドラムは今みたいに別録りではなくて、同時に録っちゃったんですね。それで、ドラムだけは専用のブースがあって、そこに入ってもらって、小さい音の楽器は別室に入ってやってましたね。行ったり来たりして大変でしたよ(笑)。

ーーM27.「「アクション」よりギャバン活動開始」は、『宇宙刑事ギャバン』(1982)ですね。

MURO:「ギャバン」も本当にリアルタイムでしたね。よく観てました。この曲は、結構、勢いがあるといいますか。ちょっと元気でレアなグルーヴのレコードと一緒にかけても、全然引けをとらないようなグルーヴでしたね。ライナーノーツのタイトルも面白くて、「BGMの作曲はしんどい仕事なのだ」って書いてあります(笑)。

渡辺:たしかに書いてありますね(笑)。そりゃあね、しんどいですよ。1年分、全部録るでしょ。それで、しまいには、ある日もう辞めたいなと思って「もう歌だけにしてください」とテレビのプロデューサーに言ったことがあるんですけど。そうしたら「何言ってんの、あんたのBGMがいいから頼んでんだ」と言われて。

MURO:カッコいいですよね、やっぱり。ピアノもすごくいいです。

渡辺:この頃のリズムセクションはよかったですね。全部が譜面に書いてあるとは限らないんですよ。ピアノその他のキーボードなんかはだいたいコードネームだけ。ドラム、ベースも場合によっては、大体はこんな感じということを初めの小節にだけ書いておいて、それでやってくれと。ワンテストで本番でも、みんなやれる腕を持っていましたから。例えば、ラテンパーカッションなんかは、アタマの部分だけ書いておいて、あとは大体同じようにという感じで、ずーと棒を引いておいて。ただ、ブラスだけはきちっと書いてありましたけどね。

MURO:たしかに即興的なところがありますね。

渡辺:ベースのフレーズなんて、プレイヤーのほうがずっといろいろなフレーズを知っているわけで、アレンジャーが書いたものなんて、たかが知れてますから。最近は、面倒くさいけど全部打ち込みでやってくれというと、スコアを書くでしょ。そうすると平凡なフレーズしか書けないけれども、ナマのベースだったらコードネームを書いておいて、大体こんな感じで、と言えば、すごいカッコいいフレーズで演奏してくれるじゃないですか。そういう時に、やっぱりナマでやるのはいいな、と思いますね。

ーーM29.「戦士の掟」、M30.「追跡大作戦」は『バトルフィーバーJ』2連発です。

MURO:「追跡大作戦」は、カウベルの音が印象的です。レビューには「カウベルが他のリズムセクションと共にせわしなげなリズムを打ち始めると、ギターが追跡のテーマを奏し、やがてアドリブソロがスリリングに展開してこのシーンは一段と緊迫の度を加えて行く」(渡辺宙明氏によるレコード掲載レビューより)とあります。ギターも本当に素晴らしいです。

渡辺:これもアドリブですね。

--M31.「「ハードトレーニング」より新しい世界への旅立ち」、M32.「技と力、そして美しい別れより強敵鉄五郎」。これは『野球狂の詩』からですね。

MURO:僕がいちばん初めに海外に行ったのはニューヨークだったんですけれど、アニメーションのレコードとしてこれが壁にかかっていたんですよ。40ドルの値段が現地で付いていて、いま考えてみても結構な値段でした。僕、お恥ずかしいことに当時は聴いたことがなかったのですが、聴いてみたら曲もカッコ良くて。

渡辺:バラード風の曲も多いですけど。堀江美都子さんが歌った『野球狂の詩』の主題歌で、スキャットの曲があるじゃないですか。あの最初のクラビ(クラビネット)は松岡直哉さんのフレーズでした。

MURO:へえー……。この曲は「野球狂の詩」という作品に対して、どういうイメージで作っていたんですか。

渡辺:「ハードトレーニング」でしょ? なかなか難しいんですよ、訓練しているところの音楽を作るということは。でも、ロック的なビートが利いていれば絵に合う。普通のメロディだと「ハードトレーニング」という感じではないし、リズムだけでも難しい。すべて絵が無い状態からの音楽の溜め録りですから、だいたいを予想しながら書いていくわけです。

MURO:かなり自由な発想で作らなければ、なかなかこういうフレーズは出て来なそうです。

渡辺:しかも、野球のトレーニングとサッカーのトレーニングでは、また違うでしょうし、サッカーだったらこういう感じでなくて、もっとスピード感がある曲になるんじゃないかな。野球だと、ものすごいスピード感というのは無いから、これくらいがいいだろうと。そういう感覚は必要ですね。

ーーM34.『「ミステリー」より忍び』もまた、『ギャバン』ですね。

渡辺:これもよく使われていましたね、忍び込むようなシーンで。

MURO:結構、リズムが面白いものが多いですよね。どんなレコードを聴いても。こういう音って探せないです。昔のアニメーションでは、すごく独特な音楽が作られていて、そこが本当に魅力的だと思います。レコードとしても、溝も細かいですし、いわゆるライブラリーのレコードに近い感じで、世界中のレコードマニアが探しているのはよく理解できます。音のクオリティーもしっかりしているし。

渡辺:何か参考になる音楽は無いかと探すでしょ、でも、ほとんど無いんですよ。だから、ちょっとしたフレーズをつかんで、自分の中で発酵させていくという感じで作っていました。例えば海外でも、リズムセクションだけ聴いていて、いいなと思うのもわりとありますけど、メロディーに歌、言葉が入って成立しているから、メロディーをインストにしちゃうと、ちょっとつまらないものになってしまうんですよね。だから自分で独自にやるしかなかったんです。自分で言うのもなんだけど、ちょっとしたフレーズから展開できるということが、アレンジャーと作曲家の違いかな、と。ただ、外国の音楽で『スパイ大作戦』のテーマは別格でした。ラロ・シフリンの作曲ですけど、彼は天才ですね。あのような曲はかんたんには発想できないです。ああいう音楽が書けるようになるのが、理想ですわ。まだチャンスもあると思いますから、さらに印象的なものを作りたいな、と。

MURO:すばらしい! ぜひ新曲を作ってください。

(取材・文=松田広宣/撮影=竹内洋平)

■リリース情報
『Super Animated Breaks & SFX~30 Years and still counting~』
発売:11月25日
価格:¥2,315+税

<収録内容>
1.星の彼方へ
(『大恐竜時代 オリジナル・サウンドトラック』より)
1979年10月7日に日本テレビで放送された、石森章太郎原作・東映動画制作の単発テレビアニメ。音楽制作は、大谷和夫。

2.サスペンスタッチ1
(『JAM TRIP うる星やつら』より)
1981年10月14日から1986年3月19日までフジテレビ系列で放送された、高橋留美子原作のテレビアニメ。音楽制作は、風戸慎介。

3.「ピットサイン」よりM-41
(『テレビオリジナルBGMコレ クション「アローエンブレム グランプリの鷹」』より)
1977年9月22日から1978年8月31日までフジテレビ系列で放送された東映動画制作のテレビアニメ。音楽制作は、宮川泰。

4.「日本征服計画」よりM-15
(『Columbia Sound Treasure Series「忍者キャプター」SONG&BGM COLLECTION」』より)
1976年4月7日から1977年1月26日まで、東京12チャンネル(現・テレビ東京)で東映制作の特撮テレビドラマ。音楽制作は、小森昭宏。

5.侵略のテーマ THEME OF INVASION
(『エキセントリック・サウンド・オブ・スパイダーマン』 より)
1978年5月17日から1979年3月14日まで東京12チャンネル(現テレビ東京)で放送さ れた、東映制作の特撮テレビドラマシリーズ。音楽制作は、渡辺宙明。

6.復活​~よみがえる仮面ライダー~​
(『SFXスペシャル 組曲 仮面ライダー~スカイライ ダーBGM篇~』より)
1971年4月3日から1973年2月10日まで毎日放送・NET系列で放送された東映制作の特 撮テレビドラマシリーズ。音楽制作は菊池俊輔。

7.デストロンを叩け!
(『テレビオリジナルBGMコレクション仮面ライダー』より)

8.「大西洋へ旅立つ」よりゴルセノス(M-103)
(『海のトリトン テーマ音楽集』より)
1972年4月1日から同年9月30日まで朝日放送をキー局にTBS系列で放送された、手塚治虫 原作のテレビアニメ。音楽制作は、鈴木宏昌。

9.「嵐を呼ぶ選抜試合」よりC-7
(『Columbia Sound Treasure Series「おれは鉄兵」オリジナル・サウンドトラック』より)
1977年9月12日~1978年3月27日までフジテレビ系で放送された、ちばてつや原作のテレビアニメ。音楽制作は、渡辺宙明。

10.「ピットサイン」よりM-45
(『テレビオリジナルBGMコレクション「アローエンブレム グランプリの鷹」』より)

11.「恐怖の大軍団」よりM-110
(『テレビオリジナルBGMコレクション仮面ライダー』より)

12.苦悩-孤独の戦士-
(『SFXスペシャル 組曲 仮面ライダー~スカイライ ダーBGM篇~)

13.「探索」よりM-18
(『Columbia Sound Treasure Series「忍者キャプター」SONG&BGM COLLECTION」』より)

14.A TOUCH OF JAPANESE TONE
(『テレビオリジナルBGMコレクション ルパン三世』よ り)
1971年の放送開始以降、2015年には第4シーズンの放送を開始した、モンキー・パンチ原作のテレビアニメシリーズ。音楽制作は、山下毅雄。

15.TWO-BEAT ROCK“LUPIN III PART II”
(『テレビオリジナルBGMコレクション ルパン三世』より)

16.MAGNUM DANCE〜LONELY FOR THE ROAD〜
(『ルパン三世 オリジナル・サウンドトラック』より)
1971年の放送開始以降、2015年には第4シーズンの放送を開始した、モンキー・パンチ原作 のテレビアニメシリーズ。音楽制作は、大野雄二。

17.TAKE A CHANCE!!
(『ルパン三世 テレビオリジナルサウンドトラックBGM コレクション』より)

18.アンドロメダの彼方に
(『キャプテンフューチャー音楽集』より)
1978年11月7日から1979年12月18日までNHKで放送された、エドモンド・ハミルト ンのスペースオペラのシリーズを原作とするアニメ。音楽制作は、大野雄二。

19.正義の旗のもとに UNDER THE FLAG OF JUSTICE
(『組曲「バトルフィーバーJ」 オリジナル・サウンドトラック』より)
1979年2月3日から1980年1月26日までテレビ朝日系列で放送された東映制作の特撮テレビドラマシリーズ。音楽制作は渡辺宙明。

20.暁光のもとに UNDER THE LIGHT OF DAYBREAK
(『エキセントリック・サウンド・オブ・スパイダーマン』 より)

21.スパイダーマンのテーマ THEME OF SPIDERMAN
(『エキセントリック・サウンド・オブ・スパイダーマン』 より)

22.「最終戦争」より大攻略(J-12)
(『テレビオリジナルBGMコレクション デビルマン』よ り)
1972年7月8日から1973年3月31日までNET(現テレビ朝日)系列で放送された、永井 豪原作のテレビアニメ。音楽制作は、三沢郷。

23.「悪魔一族」より襲撃(H-10)
(『テレビオリジナルBGMコレクション デビルマン』よ り)

24.A DRILL MISSILE HITS THE YAMATO!(ドリルミサイル命中!)
(『SPACE CRUISER YAMATO 宇宙戦艦ヤマト(英語盤)』より)
1974年10月6日に讀賣テレビ放送をキー局として放映が開始されたテレビアニメ。音楽制作 は、宮川泰。

25.対決!妖魔軍団
(『テレビオリジナルBGMコレクション 勇者ライディー ン』より)
1975年4月4日から1976年3月26日までNETテレビ系列で放送されたテレビアニメ。音 楽制作は、小森昭宏。

26.「地球掠奪指令」よりワルダスターブラザーズ
(『テレビオリジナルBGMコレクション 宇宙の騎士テッ カマン』より)
1975年7月2日から12月24日までNET(現テレビ朝日)で放送された、タツノコプロ制作のテレビアニメ。音楽制作は、ボブ佐久間。

27.「アクション」よりギャバン活動開始(A-16)
(『テレビオリジナルBGMコレクション 宇宙刑事ギャバン』より)
1982年3月5日から1983年2月25日まで、テレビ朝日系列で放送された東映制作の特撮テ レビ番組。音楽制作は、渡辺宙明。

28.「天下無敵のガキ大将」よりM-27 T2
(『Columbia Sound Treasure Series「おれは鉄兵」オリジナル・サウンドトラック』より)

29.戦士の掟 SOLDIER'S DESTINY
(『組曲「バトルフィーバーJ」オリジナル・サウンドトラック』より)

30.追跡大作戦 THEME FROM CHASE
(『組曲「バトルフィーバーJ」オリジナル・サウンドトラック』より)

31.「ハードトレーニング」より新しい世界への旅立ち
(『野球狂の詩 オリジナル・サウンドトラック』より)
1977年12月23日から1979年3月26日にかけて全25話がフジテレビで放送された、水島新司原作のテレビアニメ。音楽制作は、渡辺宙明。

32.技と力 そして美しい別れより強敵鉄五郎
(『野球狂の詩 オリジナル・サウンドトラック』より)

33.銀河の無法者
(『 DIGITAL TRIP クイーンエメラルダス』より)
1998年から1999年にかけて全4話がOVAとして発売された、松本零士原作のアニメ。音楽制作は、深町純。

34.「ミステリー」より忍び(A-11Ⅰ)
(『テレビオリジナルBGMコレクション 宇宙刑事ギャバン』より)

35.きらめくインナースペース
(『キャプテンフューチャー音楽集』より)

36.忍びよるインベーダー
(『キャプテンフューチャー音楽集』より)

37.「ゴドメス星人」より侵略者のテーマ
(『マーチ組曲「恐竜戦隊コセイドン」 オリジナル・サウンドトラック』より)
1978 年7月7日から1979年6月29日まで東京12チャンネル(現:テレビ東京)系列で放送された、円谷プロダクション制作の特撮 テレビドラマシリーズ。音楽制作は、横山菁児。

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